エマナは仕事に身が入り、背中の子供の重さも忘れて、花を摘んだ。袋がいっぱいになり、まだ余ったものは、手に抱えもった。アシメックもいくらかもってくれた。そして家までちゃんと運んでくれると言った。エマナはうれしくてたまらなかった。
春のイタカはすばらしい
カシワナカは何でもくれる
エマナはアシメックと並んで歩きながら、思わず歌を歌っていた。帰る途中、レンドという男と出会った。イタカの隅に立ち、野を見渡している。アシメックはレンドに声をかけた。
「様子を見に来たか」
するとレンドは答えた。
「アマ草が生えてないかどうか見に来たんだ」
「まだミンダが盛りだ。アマ草は生えていないことはないが、まだ小さい」
アシメックが答えると、レンドは、そうか、と小さく言った。
ミンダの花が終わると、イタカの春は真っ盛りになり、アマ草という柔らかい草が一面に生えてくる。そうすると、山からアマ草を食べに、ハイイロ鹿の群れが降りてくるのだ。それが、春の鹿狩りの季節の始まりだった。
カシワナ族は、春になって鹿がイタカに下りてくると、普段は他の仕事をしている狩人のチームを組み、毎日イタカに行って鹿を狩る。レンドはその狩人組の中の一人だった。