◇連続猟奇殺人・妊娠中絶・臓器移植・・・
(「The Fourth Procedure」第四の母胎 STANLEY POTTINGER著・高見浩訳)
1999年新潮社刊2,700円
四部構成の本書の驚くべきモティーフは、ミステリアスな物語の展開の挙句、第四部で
明らかになる。
ハードカバー本の帯には、「①妊娠中の方はどうか読まないでください。②読了され
た方は「第四の母胎」の意味を未読の人に明かさないでください」という[お願い]
がある。そのままこの本のご紹介にも援用させて頂く。
単にミステリアスであるばかりでなく、ある意味奇想天外な内容であるから。内容に
は深くは触れられない。
この本のモティーフは「妊娠中絶」である。男女を問わず、ほとんどの人にとって深
刻な決断を求められる問題であるが、ここ日本では欧米ほどの論争にはならな
い。何故なら欧米では宗教的背景があるから、神を信じるのかダーウィンを信じる
のかを問われる国との違いである。
米国では中絶の可否について1973年米国最高裁は「ロウ対ウェイド裁判」で、女性
は受胎後3ヶ月以内に限って無条件に中絶を選択できるとする判決を下した。
これによって、女性が主体的に自らの身体をコントロールできる権利が確立し、長
年の論争に法的な決着がついたかに見えた。ところがカソリックを中心とする宗教
界、共和党保守派などの中絶反対派が猛反発。中絶を行うクリニック爆破、医師
殺害事件などが続発し、かえって火に油を注ぐ結果となった。自然中絶医が減
り、中絶手術を受けることが困難となって、もぐり堕胎による悲劇が多発すると
いう皮肉な状況となった。今も国政選挙や最高裁判事の指名、果ては大統領
選挙においても、中絶を容認するのか反対するのか、候補者に踏み絵を迫る
という厳しい状況が続いている。
このように、米国では中絶問題という極めてデリケートな領域を対象にミステリーを書
く作家は殆どいなかった。書けばどちらかの側にコミットせざるを得ないという、い
わばタブーになっていたテーマに真正面から取り組んだミステリーというところが最大
の評価される点かもしれない。
多少無理な部分もないわけではないが、速いテンポでストーリーが展開し、それを補
って余りある。何よりもこの作者は弁護士であり、連邦政府の副局長の経験も
ある。これが初めての小説とのことであるが、医学的(解剖学的)な部分も中々
堂にいっている。描写も迫真的で、妊娠中でなくとも、あまりのリアルさに辟易す
るかもしれない。
しかし一読の価値あり。
◇ 観音寺の梅
暮れから新年に掛けては、水彩画のお絵かきも自然とお休み。明日は
水彩画教室の再開とあって、怠けていてはいけないと近所の観音寺に
出かけた。安楽山観音寺は牡丹で有名だが、梅の古木もあったりして
中々趣があり、何度か絵を描きに訪れている。この時期は咲いている
花も少なく、寒いということもあって、参詣客がちらほらという程度で閑
散としていた。
本堂とは離れてはいるが小ぢんまりした山門があって、絵の対象として
は格好な素材で、何度か描いている。今回は主役は山門ではなく、沢
山の花をつけている山茶花と、今や遅しと出番を待っている梅の古木。
山茶花の木は大きく花ももう終わりに近く、木の下には散った花びらが
白く積もっていた。葉は濃い緑で日に当たった部分は白くキラキラ輝い
ているこれを表現することはかなり難しい。梅はさすがに花はまだ咲く
のは先だと思うが、枝の先端は赤紫のつぼみが一杯付いていて、ほん
のりと樹全体が染まっている。
山茶花はマスキングで白く抜いたが葉っぱのハイライト部分はうまく出来なか
った。課題である。