◇ 「森に眠る魚」 角田光代著 2008.12双葉社刊
新聞の出版広告だったか、書評だったかでこの本を知って、早速市の図書館
にリクエストをした。順番は何と97番目。1年がかりでやっと順番が巡って来た。
読後感はと問われれば、期待したほどの作品ではなかった。待ちくたびれて
読む意欲が半ば薄れていたせいか。
角田光代の作品は2002年「文芸春秋」で「空中庭園」を読んで、軽快なタッチ
で好感を持った。その後たまに家人が借りてきた本のなかに彼女の著作があ
って、それを盗み読みすることはあったが、特に感銘深い作家と心酔した訳で
もなく、つい広告のセールストークだか書評に惹かれてリクエストした次第。
本書は10年ほど前に実際にあった幼稚園のママ友殺人事件が主題のようで
あるが、乳幼児(と小学生)を持つ母親たち5人の、教育(お受験)や育児(しつ
けなど)をめぐる交流と競争、離反と関係の変質に至る経過が、ネトネト・どろ
どろしたタッチで描かれ、その上不倫やブランド嗜好など、近年の主婦を取り巻
く世相をいくつも取り込んで背景化しているので、正直いささかうんざりする。
読者がこうした育児体験を経た女性であれば「そうそう、私もそんな気持ちに
なった。そんな人が周りにいた・・・」などと共感と共に読み終える人が多いかも
しれない。
いずれにしても、多様な価値観の存在するこの世の中で、たかだか幼稚園や
小学校の学区範囲内とはいえ、そこで出来上がった交友関係がなべて良好な
まま続く筈がない。必ず疎外や回避、敵対などが起きて、鬱状態から事件へと
いうことは十分予想される。それがこの小説の材料になっただけの話。
お受験競争から殺意までにどれほどの距離があるかは人それぞれ。この辺
はもっと丁寧に作りこみ、深層心理を浮かび上がらせて欲しかった気がする。
また、終わり方もやや一本調子でなんとなく締まらなかった。残念。
(この項終わり)