読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

R・ゴダード「蒼穹のかなたへ」(上/下)

2010年04月12日 | 読書

稀代のストーリーテラーR・ゴダード
 「蒼穹のかなたへ(上/下)」(原題:INTO THE SKY) 著者:Robert Goddard 
                                 訳者:加地美知子
                                 1997年8月文春文庫刊

  ゴダードはイギリスの作家だ。ケンブリッジ大学卒で歴史学を専攻している。
 稀代のストーリーテラーと呼ばれる。かつて高い評価を得ている 「千尋の闇」(上
 /下)を読んでそのプロットの重厚さに圧倒されたが、この「蒼穹のかなたへ」
 も、登場人物それぞれの人生の交錯が生み出した事件・悲劇が最後に解き明
 かされる。もっとも少し慎重に読んでいれば、伏線に気づくのだが・・・。

  五十一歳の飲んだくれの中年ダメ男ハリー(とにかく暇さえあればビールを飲ん
 でいる)。独身(もっとも英国の男性は中年まで独身でいるのは少なくない)。
  収賄の讒言で会社を追われ、昔部下であった国防次官の計らいで別荘の
 管理人という名目で怠惰な生活を送っていたが・・・。
  そこに鬱病の静養のため別荘に滞在することになった清楚で誠実な娘ヘザー。
 実は彼が追われた会社の社長の次女。その女性に誘われて出かけた山で彼
 女は忽然と消える。当然警察に疑われ訊問を受けるが、彼女は誘拐されたの
 か、殺されのか、はたまた自らの意思で身を隠したのか。証拠不十分で釈放さ
 れたハリーは自分の手で真相を探り出そうと、残された彼女が撮った写真を手が
 かりにギリシャとイギリスを走り回る。

  このあとは省略するが、屈託した人生を送る主人公、その友人である国防次
 官ダイサートとそれをとりまく大学時代の同級生の数奇な人生。これらが綾なす犯
 罪と醜い家族や夫婦の姿。

 =人の善意の恐さを語って尽きない鬼才が展開するゴシック・ロマン=これはこの
 本の惹句である。

    

   (この項終わり)
 

コメント
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