◇ 『連戦連敗』 著者:深井 律夫 2010.11 角川書店刊
娘が読んで「面白いから」と言われて妻が図書館にリクエストして借りたものを読んだ。
本の帯に「経済小説界に新星が誕生!」とある。
著者は1966年生まれの45歳。経済小説の先輩高杉良氏や幸田真音氏が絶賛して
いるというのだから今後が大いに期待される。
何よりも経済小説としては珍しく舞台が中国で、いろんなタイプの中国人が登場する
ところが面白い。著者自身大阪外語大中国語学科を卒業後上海復旦大学に留学した
「中国通」なので、中国人、中国社会、中国経済が生き生きと描かれている。小説は中
国系銀塩フィルム会社をめぐるM&Aが話の主流であるが、著者が現に某銀行に勤務
しているだけに、やけにこの世界に詳しい。それだけでなく、やたら漢詩や論語、朱子学
の知識が披露され、歎異抄まで引き合いに出されたりするので、固い話の展開する中
で余裕を持って楽しめる。
また側聞していた中国ビジネスの実態が、フィクションとはいえ実例で明かされていく
ので興味が尽きない。法より人、権力のある人がすべてを支配できる社会。政府と党幹
部の腐敗と欺瞞、権力の私物化が横行する国。しかしその中国でも正義感が強い人は
いるのが救い。立ち上げるプロジェクトが連戦連敗になっても、「中国と日本が協力すれ
ば世界最強」との信念のもとでこうした中国の新しい世代が主人公江草と一緒に苦闘
する。
一読の価値あり。
次作が楽しみ。
(以上この項終わり)