◇ 『生還』
著者:小杉 健治 2019.4 集英社 刊(集英社文庫)
死んだはずはない。きっと生きている。
24年前、妻の美沙と二人で訪ねた郡上八幡への途次、気分が悪いとちょっと車から降りた
妻が、Uターンして戻ってきた時には姿がなかった。夫の悠木良二は妻は川に転落したので
はとか誰かに連れ去られたのかとか、警察とともに探し回ったが杳として行方が知れない。
そのうち警察はあろうことか悠木が妻を殺し、どこかに埋めたのではないかと疑い始め、
執拗に問い詰めるが結局証拠不十分で起訴には至らなかった。
それから24年。郡上八幡の踊りに憧れていた美沙は生きていればきっと郡上八幡の踊りに
現れるに違いないと毎年ここに通い詰めた。これが物語の発端である。妻はなぜ消えたのか。
事故にあったのか、自分の意志で夫の元を去ったのか。
ここに年若い弁護士鶴見京介が登場。悠木のために真実を追い求め奔走する。
悠木は鶴見に述懐する「私はこの24年間死んだように生きてきたのです」
悠木は昨年郡上踊りで美沙に酷似した智美という若い女性に出会う。顎にほくろがある。
悠木は問う「あなたの母親にもほくろはないでしょうか?」
鶴見は智美の友人を介し智美の母親を訪ねる。清須市の老舗和菓子店の女主人は佐知子と名乗っ
た。鶴見は悠木に「密かに」ときつく言い聞かせて確認させるのだが…悠木は夫と親しげ
に振舞う佐知子の姿を見て「違います」と断言する(苦し気に)。
鶴見は悠木反応を見て、佐知子は失踪した美沙でろうと確信する。
しかし幸せな夫婦だったのになぜ消えたのだろうか。
そのうち智美に同じような質問をしていたフリーライターの辰巳という男の存在が明らか
になるが、辰巳が刺殺された。犯人は?事態は混沌として来る。
終段では美沙の失踪に隠された驚愕の真相が明らかになる。だがそれは癌に侵され余命い
くばくもない悠木にとっても美沙や智美にとっても決して悲惨なものではなかった。
不可解な失踪の真相がなかなか明らかにならずに読者はいらいらするが、なるほどうまく
仕立てたものだと最後は感心する。作者の勝ちである。
(以上この項終わり)