◇ 『歪められた旋律』(原題:Creep)(上・下)
著者: ジェニファー・ヒリアー(Jennifer Hillier)
訳者: 高山 真由美 2015.5 扶桑社 刊 (扶桑社ミステリー)
サイコ・スリラー。アメリカでは石を投げれば弁護士に当たるといわれるほ
ど訴訟沙汰が多い。また弁護士に当たらなかった石は心理療法士に当たるとい
ってよいほど心理療法士が多い。何か事件に遭遇するとたいていの人はセラピ
ーを受ける。
いまシーラは、ジェイムズという男に囚われ思うように陵虐されている。シ
ーラはピュージェット・サウンド大学の心理学の教授であり、ジェイムズは実
はシーラの研究室の助手であるイーサン。シリコンを使って巧妙に変装し、シ
ーラを誑し込んで自身の屋敷に誘い込んだ。
シーラは3週間後にモリスという実業家と結婚することになっている。
シーラはモリスと知り合ってからもイーサンと何度も寝ていた。まだモリス
には告白していないがセックス依存症で友人のマリアンのセラピーを受けてい
る。マリアンは早くモリスに自分の性癖を告げないと次のステップに進めない
と忠告していたのだが、シーラの通うSAA(セックス依存症自主研究会)にも
ぐりこんだジェイムズという魅力的な男(変装したイーサン)に引っかかって
しまったのである。
日本では万引きやパチンコ・競馬・競輪などの賭博が病的依存症として認識
されているが、セックス依存症となるとアメリカほどの認知度はないだろう。
アメリカでは自主研究会という依存性を克服するためのシステムができてい
るのだからそれなりの病的依存者がいるとみてよい。
実は婚約者モリスはアルコール依存症で、シーラのおかげで治療を受けて脱
却できた経緯がある。
追い込まれたシーラがモリスにすべてを告白しようと決心した矢先の油断の
一夜であった。
シーラはイーサンに命令され、モリスに「依存症治療のために身を隠す。探
さないでくれ」と電話する。警察に捜査依頼してもは単なる家でだろうと捜査
は打ち切られ、モリスは私立探偵にシーラ探しを依頼する。
シーラは死を覚悟しながらも心理学の手法を駆使しイーサンを篭絡しようと
するものの、イーサンも心理学専攻の院生、なかなか引っかからない。
この間のスリリングな情景描写はなかなかのものだ。
この先私立探偵のジェリー、その妻マリアン、イーサンの恋人アビーが登場
し、思いもかけない展開があって、不吉な予感を残して終わる。
原題名は「creep」(ぞっとする感じ)内容そのものを表象する題名である。
『歪んだ旋律』ではまるで適合性が感じられない。
(以上この句終わり)