◇『背高泡立草』
著者:古川 真人 2020.1 集英社 刊
第162回(2020.1)芥川賞受賞作品。
平戸の島にある古びた納屋の草刈りに集まる一族の平凡な一日の物語。
難解な九州の方言に幾分辟易するが、突然シーンが一変し唐突に3つの全
く時代をさかのぼるエピソードが語られる。この作家独特のスタイルらしい
が、タイムスリップのきっかけが不明で、本筋との脈絡もない。遭難者の釜
山港への流れ、鯨組のオホーツク海への旅出、少年のカヌー冒険譚などはそ
れぞれは想像力を掻き立てられるはするが、本筋との関連を探る手立てもな
くただ戸惑うばかりである。それがこの作家の魅力であるらしいのであるが、
そんな作品の構造にとらわれることなく、代々の吉川家の家系を象徴する古
びた納屋、すでに住む人とていない<古か家>、<新しい方の家>をきれい
に保つために、毎年一族の老若男女が集まって、草刈りをしながら互いの若
さや老いを確認し合う。そんな穏やかな時の流れを感じ取れればよいのかも
しれない。
作品の題名「背高泡立草」は納屋を覆いつくす草々の主人公と思われるが、
合わせて生い茂る夥しい雑草の名前が羅列される。
(以上この項終わり)