読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

福田和代の『怪物』

2022年07月13日 | 読書

◇『怪物

     著者:福田 和代  2011.6 集英社 刊

   

   人間を骨ごと溶かす身もよだつような怪物を追い詰めた刑事。ミイラ取
  りがミイラになったというか、自らが怪物と化してしまった物語。
   何かしらホラーっぽい不思議な小説である。

   定年まであと1か月という老刑事香西武雄。死の匂いを嗅ぐという異能を
  持ち何度も事件解決のきっかけを作ってきたが、自分の特異な能力は未だ
  に同僚にも明かしたことはない。
   定年退職を目前に控えて未解決事件が気がかりである。一つは15年前に
  起きた「くるみちゃん誘拐殺害事件」。もう一つは10日前から行方不明に
  なっている橋爪という男の失踪届の事案。

   香西は幼い女児を殺し焼いた残虐な犯人と目する男堂島昭の部屋で”死の   
  匂い”を嗅いだ。間違いなくこの部屋でくるみちゃんは殺害された。
   この男は警察官僚の子弟ということで早くに捜査対象から外れ、決定的証
  拠も見つからなかった。あるのは香西が嗅いだ人には言えない”死の匂い”だ
  け。
   事件は時効を迎えたが、あろうことか政治家に立候補したその男を追い詰
  めようと執念深く追い続ける。

   橋爪という男の失踪届に片手間に首を突っ込んだ香西は足取りを追ってい
  るうちに「日本循環環境ラボラトリ」という会社にたどり着き真崎という研
  究員を識る。そこでは亜臨界水で有機物を溶かす装置でごみ処理を請け負っ
  ているが、橋爪はここで真崎に溶かされたのではと疑う。

   一方ある日「15年前のくるみちゃん事件の犯人を知っている」という女性
  藤井寺沙織が現れた。自分もその男の被害に遭ったという。
   ここいらからやや唐突でご都合主義的なのだが、香西と沙織は堂島を罠に
  かけて自供を録音しようとするが争っているうちに香西は誤って堂島を殺し
  てしまう。
   沙織を事件に関わらせたくないと思った香西は殺人者に間違いない真崎に
  堂島の遺体を溶融させる。沙織も真崎の手に落ちる。
   こうして香西は怪物真崎と同じレベルまで落ち、自ら怪物となって街をさ
  まようことになる。
   リアルと荒唐無稽の際物っぽい筋書きではあるが、話がテンポよく展開さ
  れ一気読みしてしまう作品である。
                        (以上この項終わり) 
 


   
    

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする