◇『輝山』
著者:澤田 瞳子 2021.9 徳間書店 刊
これは江戸幕府開闢以前から銀の産出地である石見国天領石見銀山附御料
大森代官所における中間金吾の目を通して、この地大森町、銀山町で働く銀
産出にかかわる人々の過酷な日常、喜怒哀楽、代官所役人のかかわりなどが
描かれる。
石見銀山は幕府直轄鉱山(御直山)と民有鉱山(自分山)があるが、いず
れも採掘と精錬など作業は山師の手に委ねられ、最終製品を代官所で買い上
げ、江戸に送られる仕組みである。間歩といういう鉱道には採掘の掘子、手
入、柄山負、精錬には銀吹師(吹大工、灰吹師、ユリ女)等々女子供も含め
多くの人が携わっている。
実は金吾は元上役であった小出儀十郎から石見代官所代官岩田鍬三郎の身
辺を探れという密命を受けて石見に来た。その背景は金吾は全く知らない。
真相は後段で岩田代官から小出の魂胆が暴かれる。
結局金吾は足掛け7年大森代官所にいた。その間無二の親友堀子の与平次や
小六、正覚寺の小坊主栄久、一膳めしやの徳市、お春、代官所の草履取の島
次などとも親しくなった。
しかし岩田代官の監視は7年経っても報告すべき落ち度が見当たらない。
岩田代官の7年目、江戸から無宿人など20人が送られて来ることになっ
た。その中には地元出身者が8人含まれており、思わぬ波紋を呼ぶ。
数年前の隣接浜田藩における抜け荷事件とその余波と石見銀山内のいくつ
かの補助線としてのエピソードが語られるが、いずれも最終段で回収される。
何と小出は浜田藩抜け荷事件摘発を自身の手柄にし甘い汁を吸った矢部駿河
守の悪事隠蔽の一端を担っていたのだという。
銀山の間歩に入る掘子は鉱道の中の空気せいでほぼ例外なく早死にする。
その兆候は気絶(けだえ)で始まる。与平次もまだ40歳にもならずに気絶
が始まった。金吾は暗澹たる気持ちで与平治を慰める。
与平次は言う。「生きてる者同士が二度と会えなくなるということは、お互
い死んでしまうと同じことだ。だとすれば誰かが死んでしまった時も、そいつ
はただ旅に出ただけだ。どこか遠くで元気にやっていると考えれば、ただそい
つの幸せを願っていられるじゃないか」
今生の別れの言葉としてはなんと心休まるものではないか。
(以上この項終わり)
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