読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

吉野路・金峯山寺と紅葉

2012年11月18日 | 国内旅行

桜の吉野路 いまは
  折角奈良に来たのだから是非行きたいという、うちの嫁はんの希望で桜の時期ではないが
 桜の紅葉もいいかも、と吉野山に出掛けた。
  吉野は高野山・熊野三山と共に山岳信仰の霊地を結ぶ「紀伊山地の霊場と参詣道」として
 2004年7月に世界遺産に登録された。

  近鉄奈良駅から大和西大寺で近鉄橿原線に乗り換える。さらに樫原神宮前駅で吉野線に乗
 り換え、とことこ電車に揺られることおよそ1時間。何しろ単線だから交換待ちの時間が長く、の
 んびりした時間を楽しむしかない。

  吉野の山は修験者が修行するところゆえ、峻劒なる峰々が連なる深山と思いきや、意外と
 おだやかな普通の山だった。(実際は奥の駈道といって1900m級の険しい山道が連なる
 修験道場である。和歌山県大峯奥駈道まで続く)
  さて紅葉はといえば、桜はケーブルで登った吉野山駅から奥深き(5キロはある)金峯山神
 社までの下千本、中千本、上千本、奥千本と全山で無慮30,000本という桜木が一斉に
 花を開くと日本一の景観という桜の名所であるが、さて紅葉はというとさっぱり見られない。
 すでに散っているのかも。

            
          ケーブル始発駅            沿道の土産物店

  
  吉野大峰ケーブルで吉野山頂駅に降り立つとさすがに少し寒い。
  かなり急な坂道を登り、金峯山寺の総門である黒門、俗界と聖地の分界門・銅の鳥居を越え
 ると修験道の総本山「金峯山寺・蔵王堂」が立つ。創建は「役の小角」とされる。奈良時代に創
 建され、室町時代に再建された現在の堂宇は、高さ34mの重層入母屋造り。豪壮な本堂に
 安置されたご本尊の蔵王権現三体が睨みを利かせている。

  本堂の一角で修行僧が護摩の行を行っていた。実際に護摩を焚く行を目の当たりにするの
 は初めてで、「オンバソワカ・・・ギャーティギャーティ・・・」と呪文を唱えひたすら太鼓とともに
 護摩を焚く姿に感動した。
  嫁はんはその迫力に「鳥肌がたった」と言っていた。
  拝観料は1000円であったが「家内安全・諸願成就」の護摩符が付いていた。

            
        銅の門            金峯山寺の紅葉           金峯山寺・蔵王堂 
  

   
       護摩符
  

  蔵王堂から475段の石段を下ると「首から上の守護は霊験あらたか」という「脳天大神(のう
 てんおおかみ)」という神様が祀ってあるというので痛い腰をかばいながら石段を下った。谷底
 に神社があり、神様なのにそこにあった3本30円の線香をあげて、今後脳梗塞や脳軟化症、
 認知症など脳関係の障害をガードしてもらいたいとお祈りした。
  往復20分とあったが、結局30分かかった。これで効き目がなかったら詐欺に近い。  

             
    脳天大神へ向かう                              脳天大神への石段        脳天大神 

  食事時になったので沿道にある「初音」という小じゃれたお店で「くずうどん」なるものを食した。
 ここは吉野葛といって植物の葛からとったでんぷんが有名で、葛を使った土産物が多い。この
 うどんは葛豆腐が付いて900円。腰の強いうどんというのはあるが、これは腰の柔らかいちょっ
 と締まらないうどんであった。ただサービスですと言って「くずもち」を出してくれたので及第。

    腹が収まったので近くの旅館「辰巳屋」で日帰り温泉。鉱泉であるが吉野の山並みを見下ろせ
 る絶好のロケーションで、桜の時期にはさぞ賑わうであろう。
  小一時間であったが旅の疲れも腰の痛みも少し和らいできた。

           
      辰巳屋の温泉(露天風呂が素晴らしい) 眼下の吉野山           吉野の山並み



   
      有名な吉野杉です

     
    (以上この項終わり)

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秋色の古都奈良を歩く

2012年11月17日 | 国内旅行

新薬師寺と白豪寺へ
  春日大社一の鳥居からまっすぐに参道が奈良公園を縦断する。1キロほど歩くと二の鳥居
 があって、そこで右に折れると歴史の道で、木洩れ陽が揺れ霧が漂い、まさに春日大社の
 神域の荘厳さが満ちている。

    
   春日大社への道
  
  2.6キロほどで新薬師寺。薬師寺は西ノ京にあるが、ここ新薬師寺は聖武天皇の病気平癒
 を願って光明皇后が創建されたもの。本堂は天平19年(747)の建物で中には御本尊の薬師
 如来坐像のほか、12神将の立像がある。いずれも奈良時代の作で国宝。元食堂(じきどう)
 だった建物は簡素・簡明なつくりで落ち着いたたたずまいである。

    
    新薬師寺の土塀            新薬師寺本堂

  この先細い道を1キロほど進むと、大和路らしいつくりの家並みの先に長い長い石段があり、
 これが白豪寺(びゃくごうじ)。元々は天地天皇の第七皇子志貴皇子の離宮であり、その山荘
 を寺としたと伝えられている。 本堂は江戸時代の再興時のものであるが、ご本尊の阿弥陀
 如来座像、地蔵菩薩立像等々は重要文化財。家人は「閻魔王座像」で初めて閻魔さまを観た
 と興奮気味だった。あの世でまみえることがなければよいが…。 

      
   白豪寺への道          白豪寺の石段

  100段以上はある石段の脇は萩に覆われ、境内には天然記念物である五色椿がある。
 何よりもこの境内から、奈良の市街地はもとより遠く生駒山地から信貴山など奈良盆地全体
 を俯瞰できるところが素晴らしい。  

        
    奈良市街地を俯瞰                 志賀直哉旧宅

  この後志賀直哉の旧宅を覗いたり、東大寺や興福寺を拝観したりで、およそ10キロを歩く
 散策になった。

第64回正倉院展を観る
  東大寺境内にある正倉院の宝物の点検や虫干しの機会に宝物の一部を一般に公開する
 正倉院展は昭和21年に始まり今年は第64回目。奈良国立博物館で公開中。
   目玉は「瑠璃坏(るりつき)」、「密陀彩絵箱(みつださいえのはこ)」、「螺鈿紫檀琵琶(らでん
 したんのびわ)」、「木画紫檀双六局(もくがしたんのすごろくきょく)」など10点。いずれも
 1200年以上前の宝物である。このように完全な形で保存されているのは世界でも珍しく、
 まさに日本の誇るべき宝である。 
  17日間の公開期間の最終日とあってけっこう混んでいて、前列で身近に見られる列は20分
 待ちであった。瑠璃坏は小さいので前列の人は喰い入るように見入っていた。

     
     奈良国立博物館       奈良国立博物館内の茶室           
      
 
  奈良時代には国、郡、大寺院などには「正倉」という倉庫が建てられ穀物や財物、道具な
 どが納められていた。この倉庫群が「正倉院」であるが、多くの正倉が失われいまや東大寺の
 正倉院のみが残り固有名詞化しているというのが実情である。明治時代に管轄権が東大寺
 から宮内省に移り、現在は宮内庁が管理している。

奈良ホテル
  今回の宿は奈良ホテル。東京駅の設計者辰野金吾氏の設計になる和風ホテル。明治42年
 (1909)「関西の迎賓館」として創業、多くの賓客を迎えた。100年を超えて厳然として迎賓館
 としての風格を示すが、さすがにシティホテル慣れしている現代人には、文化財の雰囲気を味
 わう心構えを以て臨まないといささか戸惑いを覚えるに相違ない。
  天井が優に1.5メートルは高く、暖房も懐かしいラジエーターと併用されていて、作動時には
 チンチンと音を立ててにぎやかになる。皇后陛下美智子さまがいたく気に入られたというおじ
 いさんの時計(グランドファーザーズクロック)とアインシュタインが弾かれたというスタンドピア
 ノが印象的だった。

        
    奈良ホテル旧館          大乗院の庭園             荒池の紅葉         二層吹き抜け玄関ホール

             
    玄関ホール     客室廊下       防火体制は万全       

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上高地・穂高連峰を描く

2012年11月10日 | 水彩画

◇ 冠雪の穂高連峰

   

        Clester F8

              先月10月25日に訪れた上高地は快晴に恵まれ、穂高連峰は数日前の初冠雪で絵葉
       書のようなかっこよい姿を見せていた。
           河童橋周辺では数人の人たちが絵を描いていた。ほとんどが油絵。余程腕に自信がないと
            あの場所で絵を描く勇気はない。
             帰りの時間もあり明神池までの周遊コースをやや急ぎ足で歩いたたのでスケッチをする時
            間はなかった。感動した雰囲気をしっかり脳裏に焼き付け、数枚の写真を撮って帰った。

             さて、余程時間的に余裕がないと絵を描く気分に慣れないので漸く2・3日前から着手した。
           冠雪部分と白樺の木・葉などはマスキングをした。冠雪とはいえ岩の部分はむき出しになっ
           ていて丁寧に描けば随所に岩があるのだが、大胆に雪を冠らせた。
             西穂の手前の山の常緑樹の間には紅葉した落葉樹がちらほら混じっている。アクセントと
       して欠かせないがうまく入れるのが難しい。
             一番苦労したのは梓川の流れ。川自体は深くはないので流れの色が一体でない。下の石
           まで見える清流であり、その石自体が貴重な素材なのだが、余り丁寧に描き込むと全体の
           バランスを崩してしまいそうでつい単調な流れにしてしまった。
  
                                                                                              (以上この項終わり) 

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『暗転』堂場瞬一

2012年11月07日 | 読書

◇『暗転』 著者:堂場 瞬一  2012.6 朝日新聞出版 刊

   

  物語の軸は7年前(2005.4)にあったJR宝塚線転覆脱線事故を思わせる某私鉄の列車脱線転覆事故。
 被害者となった新聞記者の辰巳、被害者の婚約者滝本、私鉄会社広報担当御手洗、応援捜査の警官
 高石など関係者それぞれが交錯し、それぞれの悲しみと苦しみと怒りと組織の過酷さが語られる。
  そのうち事故の真相をめぐり隠ぺい疑惑が浮かび、私鉄の広報担当社員御手洗は社会正義の実現か
 会社のために心をまげるか深刻な葛藤を経て、ついに辞職を覚悟し会社上層部の隠蔽工作を明らかに
 する。この間それぞれの苦悩や怒りなどを縷々書いているが、要は内部告発の重要性を書きたかったの
 だと思うものの、全体としていまひとつ展開に盛り上がりを欠き、「渾身のノンストップサスペンス」(帯の
 コメント)にしては何ともあきたらない。
 やや期待外れ。

 (以上この項終わり)
  

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高野和明の『ジェノサイド』

2012年11月04日 | 読書

◇『ジェノサイド』 著者:高野和明  2012.3 角川書店 刊

  

  高野和明の作品は初めてであるが、面白くて590ページの大作をほとんど一気に読んだ。
  この種の小説は欧米の作者によるものが多いが、舞台の広がりといい対象ジャンルの斬新さ
 といい欧米作品と比較しても全く遜色ないと言ってよいだろう。
  分類上はサスペンス、SF小説とされているが冒険小説の色彩も強い。虐殺場面は残虐であり、
 R-15指定だ。
  家人は最終章でやや甘さがあると言っていたがこの種の小説では丁度いいのではないか。

  物語はアメリカと日本とアフリカを中心に展開する。ジョージ・ブッシュと思しきアメリカ大統領
 が登場するので時代設定は2003年前後か。登場する兵器なども最先端とはいえ赤外線偵察
 衛星、武装無人偵察機プレディター、ステルス戦闘機ラプター、衛星携帯電話など新規性はない
 のでいわゆるSF小説のイメージからは程遠い。むしろ驚くべきは「肺胞上皮細胞硬化症」という
 耳慣れない難病(世界に患者数10万人と推定)治療薬開発に向ける有機合成研究者の苦闘の
 プロセスを克明に追っていくスリリングな展開である。著者はこのために創薬化学者など9人の
 助言を得ている。専門外ながら創薬のプロセスや開発薬の検証など新薬開発の世界の一端を
 垣間見る想いで知的興奮を覚えた次第。

  主人公は古賀研人(コガ・ケント)という有機合成の大学院生。父も薬学の大学研究者。かつて
 アフリカにHIVの調査に赴いたことがあるが、突然亡くなる。研人に残されたのはパソコン状の黒
 いボックス。それは思いもよらないソフト力を持ったコンピュータだった。
  一方アフリカで現世人類の知力をはるかに凌駕する知性を持った人類が突然変異で誕生した。
 僅か3歳にしてあらゆる状況を総合判断し瞬時に解決策を提示できる(ここいらがSFか)。
 現世人類から進化した個体の出現。 
  超人能力で国家機密の暗号解読を怖れたアメリカNSA(国家安全保障局)とCIAはこの超人類
 とその親、部族のすべてを抹殺する作戦を立てる。ジェノサイド(大量殺戮)である。このために4
 人の訓練された暗殺チームが組まれ、コンゴ共和国のピグミー族の一集落に派遣された。  
 
  コンゴ共和国は周辺部族が入り乱れ大量虐殺の攻防が繰り返されている地域。暗殺チームの
 面々は、これらの武力を掻い潜りながら殺害対象を追い詰めているうちに超人類の子供の入手し
 たアメリカ機密情報によって自分たちがアメリカ大統領の命令のもとに罪もない人たちを殺すため
 に派遣され、最終的には自分たちも殺される運命にあることを知る。

  殺戮集団の一員ジョナサンの息子は「肺胞上皮細胞硬化症」のために余命1カ月に満たない状
 態にあり、ジョナサンは治療薬開発に取り組む古賀研人」の存在を知り、開発を助ける超人類の保
 護とアメリカ大統領による超人類殺戮作戦撤回に向けてまい進する。

  「全ての生物種の中で、人間だけが同種間の大量虐殺をおこなう唯一の動物だ・・・人間性とは
 残虐性なのだ」(p407作中のハイズマン博士の言)
  人はなぜ戦争をするのか。著者は、アメリカの大統領は民主主義のシステムの中で合理的に選
 択された権力主体と言われながら、巧妙に絶対権力者たる存在として仕組まれており、大統領の
 性向(残虐性を内包するか否か)が全世界の運 命を左右する危険性を内包していると看破する。

  (以上この項終わり)

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