院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

「精神科」と「神経科」

2012-09-17 05:58:16 | 医療
 「精神科」に対して「神経科」は、元来、神経を取り扱う科である。つまり、手足のシビレや痛みなどである。でも、精神病も神経の病だから、初めのころは神経と精神の区別が曖昧だった。

 「精神科」は昔は名称の響きがキツかったから、精神科病院は「精神科」だけでなく「神経科」も名乗った。

 私が若いころ勤めていた精神科病院は畑の真ん中にあり、やはり「神経科」を標榜していた。

 そのため、ある日近所のお婆さんが腰痛を訴えて、私がいた精神科病院に来た。むげに断るわけにもいかず診察してみると、うつ病の徴候があった。基礎に軽いうつ病があるための腰痛と思われた。

 そこで、うつ病の薬を処方したら、お婆さんの腰痛はたちどころに良くなってしまった。それはそれで、めでたしめでたしなのだが、そのお婆さんは「あそこの病院の薬は腰痛によく効く」と触れ回ったので、精神科病院に腰痛の患者さんが押しかけることになった。

 ほとんどの患者さんは普通の腰痛だったので、説得して整形外科に回すのに苦労した。

 現在「精神科」の響きはかつてほどにはキツくないようだ。ちょっと眠れない、少し不安でドキドキするといった、極めて軽症の患者さんが平気で精神科病院を訪れるようになった。

 私が若いころ「そうなるといいなぁ」と思っていたことが、今になってようやく実現した。

 (「精神科」は強制入院の権限がある。「神経科」にはない。かつて両者の決定的な違いは、これだった。昨年「神経科」の名称が廃止された。だから、今見かけるのは、まだ書き換えていない看板である。)