院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

俳句の本質「存問」

2015-07-19 06:35:44 | 俳句
(角川書店刊。)

 俳句の本質を指す言葉として「存問」がある。「病人を存問する」というように安否を問うことである。

 この言葉は、高濱虚子が昭和32年12月29日の朝日新聞の「小俳話」というコーナーに書いてから有名になった。そこには「お寒うございます。お暑うございます。日常の存問がすなわち俳句である」とある。

 私の解釈では、日常の軽い挨拶だが、そこにも型がある。挨拶だからこそ型破りなのは危険である。たんに「お暑うございます」と言っておけば無難なのだが、芸がない。

 型破りになるかならないかギリギリのところで勝負をするから、俳句は面白いのである。

 これまでの私の代表作を3つ挙げろと言われれば、次の2句である。3つ目はまだできていない。

    夜振りの火二つに割れてゆきにけり

    手話の子の声なけれども息白し

超危険業務に必要な報酬は「敬意」!

2015-07-18 05:58:57 | 心理

(サマワでの自衛隊車両。asahi.com より引用。)

 毛利衞さん以来、ものすごい危険業務である宇宙飛行から帰還して、精神的な危機に見舞われた人は一人もいない。彼らには国民の尊敬と歓呼があったからだ。かりに無名の人が宇宙飛行を命ぜられ、若田光一さんのように立てないほどの筋肉萎縮を起こして帰還し、それを誰にも知られず歓迎もされず、「はいご苦労さん、本給プラス危険手当1日2万4千円ね」と渡されてチャラにされたら、その人の精神状態はどうなるか分からない。

 イラクのサマワにPKOとして派遣された自衛隊員たちの精神状態を追った、元自衛隊中央病院精神科部長・福間詳氏のインタビュー記事が朝日新聞にあった(2015-07-17 付)。 氏は正しくも、自衛隊員の精神状態は国民のコンセンサスに左右される、社会の理解が不可欠だと指摘している。

 ベトナム戦争当時、アメリカ兵がベトナムで熾烈な戦いをやっているあいだに国内世論が反戦へと傾き、ベトナム帰還兵は歓迎されなかったばかりか人殺し扱いを受けたことで、少なからざる兵士が精神的に廃人のようになってしまった。国を背負って戦地に派遣された者には、お金ではなく熱烈な敬意が必要なのである。

(ところで、冒頭の2万4千円とはサマワに派遣された自衛隊員の危険手当の額である。)


※今日、気にとまった短歌

  お風呂だけ楽しみなのと言う母の足に老医は包帯巻かず (埼玉県)いのまさし

AO入試

2015-07-17 04:11:47 | 教育

(AO入試の説明。関西大学のHPより引用。)

 いまや高卒者の半分くらいが大学に行くようになった。(私たちの時代は1割。)今の大学生のうちほぼ半分がAO入試とやらで入学したらしい。(私の理解では、AO入試とは面接や論文でヤル気を測って、学力は問わない入試。)

 大学にとってのAO入試のうまみは、一般入試の募集人員が減って倍率が高くなり一般入試の偏差値が上がる(そして公表される)ことである。(AO入試はそもそも偏差値が算定できない。)

 ある数学者の報告によれば、AO入試で入ってきた学生は、二次関数三角関数初等微積分などの地道な訓練をしていないから、そこから始めなくてはならない。ヤル気だけでは駄目なのだという。

 さらに、AO入試で入った学生は一般入試による学生より、成績(点数)が30%低い。中途退学者も多く、一般入試の退学者が16人に1人なのに対して、AO入試のそれは6人に1人だという。

 まあ、一般入試だけしかやらないとAO入試をやる大学に学生を取られてしまうから、多くの大学に広まったのだろう。二次関数三角関数初等微積分は、それが将来の考え方に役立つ人は1%もいないと思う。重要なのは論理性よりも、円滑な対人関係だというわけだ。

 文科省は大学入試で対人関係や人柄を重視せよと言っているが、東大京大までそれでは困る。高校には対人関係は駄目でも、古典文学にメチャ強い、うそみたいに物理ができるという奴がたくさんいるのだから。


※今日、気にとまった短歌

  電柱に片足上げて用を足(た)す人所在なくそれを待ちをり (松坂市)有田典子

自宅での看取りの落とし穴

2015-07-16 06:31:27 | 社会
   (文春文庫、1996)

 私の明治生まれの祖父母4人は3人まで病院で看取られた。自宅での看取りは1人だけ。

 かねてより、自宅での看取りを望む人が多くなった。そこで注意しなくてはならないことは、最低2週間ごとに医者に診てもらうことだ。2週間以上診てもらっていないと原則的には主治医でも死亡診断書が書けない。

 じっさいのところは馴染みの医者なら(患者がすでに死んでいても)自分の責任において、自分が駆けつけたあとに死亡時刻を設定するなどして、なんとか死亡診断書を書いてくれると思う。

 しかし、問題は馴染みの医者がいないときだ。そうなると自宅で死んだ場合でも不審死ということになって、警察を通さなければならない。警察が検死医に死体検案を依頼して、検死医が死体検案書を書いて初めて火葬埋葬が可能になる。(極端なはなし、生命保険金目当ての家族によって毒殺されたなんていうこともありうるからだ。実例があるでしょ!)

 病院で死ぬ場合は、主治医(または当直医)が常駐しているから、問題として浮かび上がってこないだけなのである。


※今日、気にとまった短歌

  青春を生きた硬貨の五十円トリスを飲んだ名画座へ行った (杉並区)本間木丈

幸せな死に方

2015-07-15 04:29:33 | 社会

(八王子のぽっくり観音、龍泉寺。いいお墓のHPより引用。)

 94歳だが頭も足腰もしっかりしたお爺さんがいた。シーズンになると、裏山の山菜取りに出かけるのが楽しみだった。あるときお爺さんが帰ってこない。家人が見に行くと、お爺さんは鎌を握ったまま草むらで亡くなっていた。これほど幸せな死に方はない、と何かで読んだ。(出典は忘れた。)

 そのお爺さんに対して、水分が足りなかったから熱中症になったのだとか、高血圧を放置していたからいけなかった、なぞと言う人が必ず出てくる。「センスが悪いなぁ」というのが私の感想である。

 (この記事は前回の続きとして読んでいただきたい。)


※今日、気にとまった短歌

  あこがれの東京に住み空(くう)に浮く我が家を終のすみかとなせり (荒川区)影山博

ほんとに熱中症?

2015-07-14 06:04:18 | 医療

兵庫の病院の健康ひろばより引用。)

 一昨日の日本列島は異常に暑く、熱中症で死者が2人出たと報道された。一人は北海道で、83歳の女性が路上で亡くなっていた。もう一人は埼玉県の94歳の女性で部屋で亡くなっているところを発見された。(昨日も4名の「熱中症死」がニュースで言われた。)

 死亡診断書死体検案書はだれが書いたのだろうか?たぶん、ちゃんとした病理解剖や司法解剖を行っていないだろう。ならば、なぜ熱中症と分かったのだろうか?

 80歳90歳の人の急死はありふれたことで、ポックリ逝けてよかったねという人もいるくらいだ。ふつうは心筋梗塞や脳卒中が多い。冬だったら熱中症とは診断されなかっただろう。

 その日が猛暑だったという理由だけで熱中症として片づけられたようだが、暑い日でも心筋梗塞や脳卒中は起こるのである。

 何が言いたいかというと、ほんとうかどうか分からない「死因」を大々的に発表して、国民の不安をあおるな!ということだ。


※今日、気にとまった短歌

  はなやかな開店の記憶まだ残るラーメン店の忽と消えたり (鹿児島市)柿本順子


このたびの安保法制にかんする憲法論議の論理性を問う!

2015-07-13 06:45:48 | 学術

(水島朝穂教授。YouTube より引用。)

 このブログは時事問題を取り上げないのだが、たんに論理運びの問題として国会参考人として呼ばれた憲法学者たちに問いたい。

 私は、憲法学者は憲法そのものには異をさしはさまないと考えている。異をさしはさむなら憲法学とはまた別の学問になってしまうからだ。質問はただひとつ。

 「あなたは自衛隊を違憲合憲のどちらと考えているのですか?」

 それを語らないで、このたびの安保法制が違憲も合憲もないだろう。多くの新聞テレビが憲法学者たちにその点を問わないのが不思議である。かつては自衛隊違憲論があり、国民が自衛隊員に「税金ドロボー」と罵声を浴びせたこともあるのだ。

 私の知るところ、自衛隊そのものが違憲だとおおっぴらに言っている学者は早稲田大学法学学術院教授の水島朝穂氏だけである。彼にとっては違憲の自衛隊の存在を前提とした安保法制はむろん違憲で、極めてすっきりしている。

 自衛隊を合憲としながら安保法制を違憲とする学者がいたら、自衛隊合憲論から安保法制違憲論への筋道をじっくり聞かせていただきたい。(学者は機を見るに敏であってはいけません!)


※今日、気にとまった短歌

  ありのままのオレはどういう奴なのか笑うと裂けるくちびるの皮 (仙台市)工藤吉生

機械芸術あなどれず

2015-07-12 08:03:34 | 技術

(機械翻訳のアルゴリズム。京大・黒橋河原研究室のHPより引用。)

 バッハ風の楽曲が絶賛された、ハーレクイン・ロマン風の小説が売れた、映画の脚本から、その映画が大ヒットすることを的中させた。

 以上はすべて機械(ソフト)が成した偉業である。作曲、小説の執筆、映画のヒットのシミュレーションはすべてソフトが行った。ITは、不可能と思われていた芸術分野にまで進出してきた。

 検査値診断だけでなく、画像診断ももうじき熟練医師の領域に達する。ちかぢか医者は、コンピュータが出した診断や治療法にめくら判を押すだけの役割になるだろう。

 自動俳句生成装置は、すでに友人が私たちも協力して作った。季節を指定したほうが、それらしい俳句ができる。これに機械翻訳のロジックを加えれば名句が生成されるかも!?(「送信」をクリックすれば、いくらでも俳句が生成されます。5句に1句くらいはあたかも人間が詠んだような俳句ができます。まだ冗談ソフトのレベルですが。)


※今日、気にとまった短歌

  踏切を通る電車の下に見るパラパラ漫画みたいな足たち (大阪市)黒田きい

続・動物愛護主義の存在価値

2015-07-11 05:17:02 | 芸能

(たま駅長。和歌山市観光協会のHPより引用。)

 和歌山電鐵貴志川線の貴志駅のペット「たま駅長」の葬儀に3,000人もの参列者があったことを、海外メディアは驚きをもって報道したらしい。

 海外生活の経験がない私にとって、3,000人の参列のどこが外国人には珍しく感じられるのかは分からない。動物を擬人化するのはなにも日本のお家芸ではない。イソップだってグリムだって動物が擬人化されている。おおむかしは全ての民族にアニミズムがあっただろう。

 識者によれば、イソップもグリムも動物が対等な人間として出てくるのではなく、むしろ敵対的キャラクターとして描かれているという。

 別の識者は、キリスト教文化圏では動物は人間のしもべとして生まれてきたと解されているから、盛大な葬儀が不思議がられるのだという。聖書には牛は食べてもよいがクジラは神の使いだと書かれているらしい。

 日本では犬のおむつや犬の車椅子の販売など、動物介護業界が勃興しているが (2014-07-12)、同じ傾向が海外にもあるのだろうか?


※今日、気にとまった短歌

  我が内を何かは知らぬものたちが行き廻りして手術終われり (金沢市)赤江玲子

株を買おうと思ったころ

2015-07-10 06:13:02 | 経済

(1980年台の立会場。(株)東証のHPより引用。)

 30代後半のころ、同僚の行政マンが株に詳しいので、株を買おうと思った。「指し値」とか「成り行き買い」とか基礎的なことを教わった。

 いざ株を買おうと思ったら、ブラックマンデー(1987/10/19)に襲われ、新聞の株式欄は▼印一色になった。行政マンの同僚は「今は手を出さないほうがよい」とアドバイスしてくれた。

 あれ以来、株を買ったことがない。株売買の儲けは株で損をした人のお金が回ってきただけの賭博だと分かって(2014-10-06)から、株には手を出していない。何種類もの株を買ってリスクを分散するのは、要するに平均株価の値上がりを期待するもので、株式投資の面白味がなくなるという。

 そりゃそうだろう。賭博でなくなれば面白くないのは当然だ。個人の株取引を投資だというが、なに賭博の掛け金に過ぎない。あらゆる賭博を避けつづけてきて、私は定年の年ごろになった。


※今日、気にとまった短歌

  御足労お掛けしました警官に謝辞を言われて父を迎える (千葉県松戸市)をがはまなぶ

人を憐れむ心

2015-07-09 06:59:32 | 心理

(中国の乞食。4travels より引用。)

 他人を本当にかわいそうだと思ったことがある。小学校2年生のことだ。父親に連れられて江の島の坂を登っていたら、途中に男の老人の乞食がいた。痩せて目が赤くなっている。

 無視して通り過ぎようとする父親を引っ張って「かわいそうじゃない!」と無理に施しをさせた。父親は「情け深い子だね」と褒めてくれた。


※今日、気にとまった短歌

  さくら道突如足音迫りきておいこしてゆく野球部の背中 (兵庫県)田村繁子

3世代同居とプライバシー

2015-07-08 15:33:31 | 社会

(北京の三代目(3世代?)カプセルマンション。サーチナより引用。)

 小津安二郎の名作と言われる「東京物語」(1953)のリメイクの、山田洋二監督「東京家族」(2013)をテレビで見た。親子夫婦の間柄を描いているようでいて、要するにこの映画はひたすら東京の住宅問題を語っていると思った。

 二世帯住宅や三世代同居が理想のように言われる今日だが、やはり若夫婦と親が同じ屋根の下に居るのはまずい。夜の営みさえものすごく気を使って行われなくてはならない。

 西洋はプライバシーの考え方が確立していていいなぁと思った人は、隣り近所が疎遠になって近所付き合いさえなくなったと嘆く権利はない。東京のマンションは隣り近所が付き合わなくて済むように造られているからだ。

 ご近所付き合いを懐かしむなら、隣りの人が勝手に自宅の冷蔵庫を開けることに耐えなくてはならない。それがイヤなら、東京砂漠に順応するほかはないのだ。


※今日、気にとまった短歌

  肉屋逝き八百屋も逝きて魚屋はがん疑わず橋から跳んだ (横浜市)横山美智子

女性の就労とGDP

2015-07-08 05:44:53 | マスコミ

(ラガルド専務理事。IMFのHPより引用。)

 IMFのラガルドさんが来日したとき、「日本の女性が全部就労すればGDPが30%上がる」と述べたと報道された。しかし、この報道はマスコミいつもやる断片だけ捉えたものではないか?と言うのは、意味が分からないからである。

(1)女性が全員就労すると就労者が何%増えるのだろうか?
(2)たぶん、(女性の全員就労で)就労者は30%以上増えるだろう。だとすると、GDPが30%伸びても就労者一人あたりの分け前は減るのではないか?

と、経済に疎い私は考えてしまう。マスコミは素人に分かるように報道してもらいたい。


※今日、気にとまった短歌

  人間の造りし電車に人間があこがれてゐる線路の脇で (宮城県)渋谷史恵

経済学者に「予知」はできない!

2015-07-07 05:43:02 | 経済

(ノーベル経済学賞学者、クルーグマン氏。togetter より引用。)

 テレビの経済番組で日本人の経済学者が次のように述べた。「経済学者は火山学者と同じで、マグマとか山の地形がどうなっているを知っているが、噴火の予知はできない!」なるほどと思った。

 各金融機関には金融アナリストがいるけれども、彼らの意見が一致したためしがない。それは当然で、相場の今後がどうなるかが正確に分かるのなら、金融機関のサラリーマンを辞めて自分で投資したほうがよほど儲かるからだ。


※今日、気にとまった短歌

  あこがれて婦警となりし娘の写真われに向ひて今日も敬礼 (青森県)菊池美絵

動物愛護主義の存在価値

2015-07-06 06:06:51 | 文化

環境省のパンフ。)

 縁台のヘボ将棋には興味がありません。でも「ヘボ」にも存在意義があります。将棋界のすそ野を形成しているのは、ヘボ将棋を打つおじさんたちです。すそ野があるからこそ羽生名人が名人として尊ばれるのですよね。

 話は飛躍します。平安京の都でさえ死体が転がっていましたが、だれも見向きもしませんでした。芭蕉にも「野ざらし紀行」があるように、ちょっと旅に出れば行き倒れのまま野ざらしになった遺体が放置されていました。

 昭和初期の新聞には、奇形児を見世物小屋に売った親を非難する記事があります。つい昭和の中ごろまで子どもは親の所有物で、煮て食おうが焼いて食おうが親の勝手でした。間引きも捨て子もふつうに行われていました。(捨て子は翌日には野犬たちに食い散らかされていました。)

 個人の命の重さが、むかしは現代とは比較にならないくらい軽かったのです。(現在の日本では遺体が山に一体見つかっただけで、大騒ぎになりますよね。)

 私が幼いころの少女漫画や紙芝居は児童虐待が定番でした。(まま母によって、主人公の女の子だけが家族とは別に粗末な食事を台所で与えられるとか。グリム童話の「灰かぶり(シンデレラ)」は要するにいじめと、それに対する復讐のお話です。)

 そこで動物愛護の思想ですが、動物を愛護するのは人間を愛護する「すそ野」だと思います。動物愛護の考えがあるからこそ、人間はもっと大事にしなくてはならないという意識が芽生えます。

 ここで冒頭の将棋の話と結びつくのですが、何事もそす野が広くなければ頂上は高くなりません。動物愛護の精神は、人命を尊ぶという観念のすそ野であると考えると、動物愛護主義をあながち偏向した趣味だとは片づけられないのです。

(私は動物愛護主義者に対して「では諸君はなぜ豚や牛を喰うのか?」と責めてきましたが(2014-10-06)、人間愛護の「すそ野」として存在価値があることを認めましょう。)

(「犬公方」として軽蔑された将軍、綱吉は虫類まで愛護せよと命じましたが、同時に捨て子の禁止、老人愛護なども発令しました。たいへん進んだ将軍だったと言えましょう。)


※今日、気にとまった短歌

  遠足の点呼常より高き声黒磯駅の思わぬ活気 (宇都宮市)藤本一誠