続きです。
このボスの前にあるタレントが現れます。30数年前にです。今、年末のコマーシャルに出ている人です。多分、日本人なら誰だって知っていると思います。その知名度では日本トップクラスです。
このタレントがボスの前に現れた目的。それは借金の申し込みです。このタレント、当時もボチボチの知名度が有りましたが、30年以上前と言えば所得税が馬鹿高だった時代です。単純に言いますと10億円稼いで手取りが1億円です。総中流と言われた時代です。金持ちには地獄。普通の人には大変良い時代でした。格差がそれほど無かった時代です。
このタレントが借金を作った理由ですが、余りにも多趣味で金遣いが荒かったからです。特にクルマ好きは有名で、20代の時でも5、6台。或いはそれ以上所有していたと聞きます。それで次の年の税金が払えなくなってこのボスに借金を願い出たと言ってました。
このタレントとボスは当時それほど接点は無かったと聞きます。それでも借金を申し込んだ理由は多分、銀行が貸してくれなかったからだと思います。
名の知れた芸能人と言えど一寸先は闇です。当時20代のこのタレントに金を貸す銀行は無かった。それでボスに借金を申し込んだのだと思います。
その借金の金額は3000万円。今から30年以上前ですからそりゃもう大金です。それを大して面識のないボスに申し込んだのです。無謀だし呆れます。余り常識の有る人とは思えません。常識が無いからクルマを何台も買い捲ったのでしょうけど。
ボスも呆れたと思います。3000万円も貸してくれと言うのですから。そしたらこのタレント、泣き始めたのです、嗚咽を上げながら。そして土下座をして頭を床につけ、大泣きして3000万円の借金を必死に頼みます。今の飄々とした彼を見ていると、誰もそんな事をする人物とは思えませんよ。
その姿を見たボスはこう思いました。「憂い奴よ」と。何か可愛くなったそうです。それで快く3000万円を貸してやっただけでなく、どんどんそのタレントをテレビで使う様に各局のお偉方に通達。それで超売れっ子になったのです。実力以上に。驚く程の。
このタレントですが、元々はシンガーソングライターです。植木等、欽ちゃん路線のおちゃらけた面白くもくだらない歌を歌っていました。駄洒落のような事を彼特有の変な口調でしゃべります。私は全然興味ないですけど。
そんタレントを番組の司会に抜擢させたのです。普通は考えないと思います。彼には司会のイメージはありませんので。でも人気がでたことは才能は有ったのでしょう。ここまでボスはテレビを私物化出来るのかと本当に驚きを感じます。
それにしても、たった一回の土下座でここまで運が好転したのには考えさせられます。人生は運だけじゃない。努力だけでもない。自分をさらけ出して大物や貴人にしがみつくのも大事だと思います。
レッツ・ハングオン。そうは言っても人見知りの私には出来そうに無いです。だから組織にも居られず未だに独身なのだと、この記事を書いていて痛感しています。遅過ぎますね。
以上の話はFさんがHTさんから聞いた話です。HTさんは新聞漫画家として人気となり、さらにクイズの解答者としてその人気は全国区へ。しかし残念ながらその後男性更年期症となり、徐々にメディアから姿を消します。そしてゴールデン街で毎日飲み歩き、肝硬変から末期癌となり60歳そこそこで亡くなりました。
HTさんはボスの事務所所属のタレントですが、ボスはHTさんの葬儀の時、HTさんを「自分の最高傑作?? 最高作品??」とか言って弔辞したのには驚きでした。HTさんをモノの様に言い放ったのです。
私、思うのですが、HTさんが酒に走ったのはボスからモノ扱いされ続けたからではないでしょうか。
それが嫌だった。しかし事務所を辞め落ちぶれたコメディアンを見て、自分はモノではないと葛藤しながら事務所に所属し続けた自分。こんな人生で良いのか。色々考え悩んでいた様に思えます。多少なりとも。
男気のある人だったそうです。そしてあれだけ雑学がある人ですから、何通りにも考えが及んだ筈です。考えすぎて酒に走った、否、考えたくなくて酒に身を任せたのではないでしょうか。
土下座して大泣きし、モノ扱いされたかも知れないけど深く考えずに人生の波に乗った有名タレント。深く考えたHTさん。人生ってあんまり考えすぎてはいけない点は間違いなく有りますね。でもどうしても考えてしまう人間もいる。
私も考えすぎる性質です。HTさんと同じタイプだと思います。だからどうしてもHTさんと話したかった。HTさんが亡くなって約10年経ちますが、今でも残念に思っています。何かしらヒントを得られたと思いますので。
最後になりますが、FさんとHTさんが仲良くなった経緯ですが、FさんがHTさんに取材を申し込み、HTさんが遅れてやって来たが全然謝らなかった。それでFさんが腹を立て取材の中止を申し出て帰った。後日、HTさんは自分の非を素直に謝り、Fさんに対し骨のある奴だと思うようになり仲良くなったとFさんは言ってました。編集者としての意地を見せたと言う事でしょうね。
私はこの程度の事では怒ったりしませんが、誰に対しても間違いを非難できるFさんの心の強さは羨ましいです。私の場合、それが不運になる様で怖い。誰に対しても一線を置く。それが私の編集者としての限界だったのかも知れません。
もっとも編集者は今不遇の時代で、どう頑張っても私は編集で生き残る事は難しかった様に思えます。残念ですけど。
ではでは。