続きます。
配達を終えて天才は私に近づきこう言いました。「私に掴まれ捻られた腕が痛い」と。
天才は謝りませんけど、この発言で懺悔の気持ちが見れました。私は黙って許しました。新聞配達がありますので。
本来なら包丁を持ち出して私を刺そうとしたのですから警察沙汰にすべきです。でも天才に辞められたら店は労務倒産してしまいます。新聞販売店は超3K。超人手不足です。当時はバブル上昇期でしたから特にです。だから警察沙汰にしなかったのです。こんな商売あったもんじゃないです。酷いもんです。
実は天才が高校中退したのは犯罪を犯して少年院に入ってたからです。だからこそ新聞販売店にしか勤め先が無いと言うことです。こんなの珍しくも何ともないです。それが新聞販売店ですので。
天才は母子家庭です。近くの市営住宅に母親と妹が暮らしています。何と妹は東北大生です。元々頭の良い血筋だったのは間違いないです。
では何故、天才はぐれてしまったのか。
彼は見てしまったのです。父親が首を吊っている姿を。
東北一の繁華街である国分町で飲み歩いてるのは割りと漁師が多いです。漁師は東北では高収入なのです。
私のアパートにも漁師の娘が入ってますが、父親の年収は800万円。農家と比べれば2~3倍高い。中でも高い年収を誇るのは養殖漁業です。20代の漁師でも年収2000万円以上が珍しくない。勤めている医者よりも収入がある。だから国分町で豪遊出来るのです。天変地異がなかったらですが・・・・・・。
私の母方の親族は福島県いわき市で梨園を営んでいます。自然相手の仕事です。台風の襲来で収入は激減します。自然相手の仕事はリスキーです。それに放射能ではやって行けないですね。
この天才の父親もヒラメの養殖をしていました。順調であるならば楽に2000万円以上の収入が見込めます。
しかし、或る年、大量の赤潮が発生。ヒラメは全滅。それにショックを受け天才の父親は自殺。その姿を見た天才は心に大きな傷を負った。それが天才がぐれた要因です。
私も震災で二つの店舗は大打撃を受けました。今の私は少なからず欝状態です。でも手塩に掛けて育てたヒラメが全滅したら今の私と比較にならないほど辛いですね。金銭面でも心情面でも。
福島県の放射能汚染地帯で肉牛を育てている農家は、出荷出来ない肉牛に未だに餌をやり続けています。動物であっても魚であっても死は辛いもの。大量のヒラメの屍骸を見たら私も精神が狂うと思います。自殺した天才の父親を責められないと思いますね。
でも家族の為に踏みとどまって欲しかった。否、踏みとどまるべきだったと思います。父親の自殺で天才は心を歪まされたのですから。
妹だって東北大学に入れたのです。天才も心豊かに生活出来てたら新聞販売店で働く事は無かった。アル中、酒乱になる事は無かった。普通に生活出来たと思います。
私も父親との葛藤がありますが、父親が首を吊っている姿を見たら精神が確実に狂うと思います。天才の父親はヒラメよりも家族を考えるべきだった。家族の為に自殺は踏みとどまるべきだったと思います。
大きな借金が出来たなら、少しづつ返せばいい。困難なら自己破産しても良いと思います。ただ単にゼロに戻るだけなのですから。
自殺して周りに影響を与え家族をマイナスに落とすより絶対良いと思います。たから家族の有る人は、自殺する前に家族の事を考えてみて欲しいです。
未だに独身の私はどうしたもんかと思っていますけど。
でばては。