普通、大藪春彦といえば処女作「野獣死すべし」か「汚れた英雄」あたりだろうと思う。もちろん、私もそれらは読んでいるが、一番記憶に残っているのが表題の作品。
何度か書いているが、私はあまり育ちが良くない。子供の頃住んでいた街の一角には、時折賭場がたち(いわゆる鉄火場です)、縁があり私はそこの庭掃除のお手伝いをしていたことがある。小遣いとしてはたいした金額ではなかったが、そこで時折貰えるお菓子は贅沢なものが多く、それが何より楽しみだった。
当時、政治の世界では田中角栄が退陣し、その後を受けた三木首相の後、福田赳夫が首相の座についていた。期待のエース的な扱いをする論調もあったが、私の周囲では極めて評判が悪かった。悪し様に罵る人のほうが圧涛Iに多かった。なかでも過激だったのが、鉄火場でたむろするおっちゃん達だった。
当時はなぜ福田首相が悪し様に罵られるのか、さっぱり分からなかった。幸か不幸か、私はその頃から堅気の道に入り込んでしまい、もう鉄火場の小遣い稼ぎもしなくなっていたため、なぜ鉄火場のおっちゃんたちが、福田首相を罵るのか、その理由は聞けなかった。
その理由がなんとなく分かったのは数年後、大藪春彦の小説を読んでいる時だった。ご存知の方も多いと思うが、大藪春彦の小説、とりわけ晩年の作品では銃器の扱いに長けた主人公が、政界の悪役たちを暴力をもってなぎ倒すストーリーが多い。表題の作品でも、政界の醜い争いに利用された主人公の復讐がテーマになっている。
新聞やTVが、決して語ることのない戦後の日本の政治における右翼や暴力団の役割。簡単に言えば、自民党がこれらの人材を活用して、左派勢力の駆除を図ったことが発端でした。福田赳夫もまた、あの有名な角福戦争の裏側で、これら右翼、暴力団とは無関係ではなかった。そして、福田は首相になって後、手のひらを返して暴力団に対する弾圧(いわゆる頂上作戦と呼ばれてました)を推し進めていた張本人でした。
私の周囲にいた鉄火場のおっちゃん達は、おそらく関東会系の博徒の人たちだと思います。関西の山口組に対抗するため、強引に集められ、利用され、最後には警察に弾圧された訳ですから、福田を嫌うのも当然でした。
表題の作品に限らず、大藪春彦の小説には、TVや新聞が決して語らない政界、官界、経済界の裏面をモチーフに使っているものが多い。ヴァイオレンス小説と蔑まれることもある大藪作品ですが、少し視点を変えて読むと、けっこう面白いものです。
何度か書いているが、私はあまり育ちが良くない。子供の頃住んでいた街の一角には、時折賭場がたち(いわゆる鉄火場です)、縁があり私はそこの庭掃除のお手伝いをしていたことがある。小遣いとしてはたいした金額ではなかったが、そこで時折貰えるお菓子は贅沢なものが多く、それが何より楽しみだった。
当時、政治の世界では田中角栄が退陣し、その後を受けた三木首相の後、福田赳夫が首相の座についていた。期待のエース的な扱いをする論調もあったが、私の周囲では極めて評判が悪かった。悪し様に罵る人のほうが圧涛Iに多かった。なかでも過激だったのが、鉄火場でたむろするおっちゃん達だった。
当時はなぜ福田首相が悪し様に罵られるのか、さっぱり分からなかった。幸か不幸か、私はその頃から堅気の道に入り込んでしまい、もう鉄火場の小遣い稼ぎもしなくなっていたため、なぜ鉄火場のおっちゃんたちが、福田首相を罵るのか、その理由は聞けなかった。
その理由がなんとなく分かったのは数年後、大藪春彦の小説を読んでいる時だった。ご存知の方も多いと思うが、大藪春彦の小説、とりわけ晩年の作品では銃器の扱いに長けた主人公が、政界の悪役たちを暴力をもってなぎ倒すストーリーが多い。表題の作品でも、政界の醜い争いに利用された主人公の復讐がテーマになっている。
新聞やTVが、決して語ることのない戦後の日本の政治における右翼や暴力団の役割。簡単に言えば、自民党がこれらの人材を活用して、左派勢力の駆除を図ったことが発端でした。福田赳夫もまた、あの有名な角福戦争の裏側で、これら右翼、暴力団とは無関係ではなかった。そして、福田は首相になって後、手のひらを返して暴力団に対する弾圧(いわゆる頂上作戦と呼ばれてました)を推し進めていた張本人でした。
私の周囲にいた鉄火場のおっちゃん達は、おそらく関東会系の博徒の人たちだと思います。関西の山口組に対抗するため、強引に集められ、利用され、最後には警察に弾圧された訳ですから、福田を嫌うのも当然でした。
表題の作品に限らず、大藪春彦の小説には、TVや新聞が決して語らない政界、官界、経済界の裏面をモチーフに使っているものが多い。ヴァイオレンス小説と蔑まれることもある大藪作品ですが、少し視点を変えて読むと、けっこう面白いものです。