この本に出会うまで、私は普通の読書好きだったと思う。歴史小説、推理小説、SF小説、動物小説と一月に7~9冊程度読む、ちょっと素行の悪い普通の中学生だった。
偶然本屋の棚から手に取った表題の本が私を狂わせた。今まで味わったことのない熱狂。当時既に十数巻刊行されていたが、新刊が出るたびに買い求めていた。これまでは学校の図書室で借りるか、古本屋での3冊100円本しか自分では買わなかったのだが、このシリーズだけは新書で買っていた。
正直、中学生には刺激が強すぎたと思う。ベトナムから呼び戻された狙撃兵マック・ボランが、故郷に帰るとマフィアに蹂躙された家族の悲惨な姿を目にする。深く静かに燃え上がる復讐の怨念が、ワンマン・アーミーと呼ばれた男の壮絶な戦いの幕を開けさせる。激高するでもなく、狂乱に喘ぐでもなく、悲壮感を押し殺してクールに戦う姿には、男として憧れを感じざる得ませんでした。当時、私にとっては最高のヒーローでした。
以来、読書熱に火がついて、二日で最低一冊文庫本を読破する毎日が始まりました。その大半がいわゆるハードボイルド小説。ハメット、マクドナルド、大藪春彦、西村寿行、平井和正ととりつかれたが如く読みまくったものです。ほぼ一年後、庄野潤三を読み落ち着くまで、この狂乱の濫読は続いたから、今考えても驚異です。当然、勉強なんてやるわきゃない。TVを観なくなったのもこの頃からです。
正確な記録は残っていませんが、当時図書室で借りた本が、一年間で100冊を超えて、先生から表彰された記憶があります。それ以外にも読んでいたので、おそらくは年間200冊前後は読んでいたと思います。
少し偏りすぎた読書であったと思い、以後はなるべく幅広く読書の裾野を広げるよう努めています。しかし、当時あれほど熱狂できたことには、自身羨望の想いすらあるほどです。もう、あれほどまでに読書に夢中になることはありません。
なんとなく寂しい気もしますが、年齢を積み重ねることにより、読書の味わい方も深まりましたから、これはこれで善しとしましょう。