ヌマンタの書斎

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「羊たちの沈黙」 トマス・ハリス

2007-05-17 15:43:11 | 
順番が合い前後するが、レクター博士の怪しい魅力に負けて、先に「ハンニバル」を書いてしまたった。でも、ミステリーとしては「羊たちの沈黙」のほうが上だと思う。初めて読んだ時は、夢中になって、気が付いたら朝を迎えていたほどだ。

映画も面白かったが、先に本を読んでいた私は、やはり空想が膨らむ本のほうを高く評価している。本のほうを高く評価しているにもかかわらず、困ったことに私の中では主人公であるクラリス捜査官のイメージが完全にジュディ・フォスターに食われてしまっている。

文章で表現されたクラリス捜査官のイメージを十分に演じているJ・フォスターは、その上で彼女独特のクラリス捜査官を演じていると思う。アンソニー・ホプキンスのレクター博士は、印象的ではあるが、小説のイメージを超えるものではない。

映画評になるが、「羊たちの沈黙」では、J・フォスターの演技は格別だった。羊たちの悲鳴を問うレクター博士の質問に、堂々応えているようで、その鋭い瞳にゆらめきを感じさせる。宙返りして激突死する鳩の話を聞き流しているようで、微かな動揺を覗かせる。まさに心理学者であるレクター博士が関心を持ちたくなる人物像を見事に演じてみせた。

続編「ハンニバル」でクラリスを演じた女優には、残念ながらこの微妙な揺らぎを感じることはなかった。大人になったクラリスを演じたと好意的に評価してもいいが、だとしたらレクター博士は関心を失うと、私は思う。

J・フォスターの演じるクラリス捜査官は、小説のイメージに沿っているようで、それを超えたイメージが私の脳裏に描かれる。こりゃ完敗だと認めざる得ない。レクター博士の心理分析ではないが、どんな思春期をおくり、いかに勉学に励み、仕事に精進したかを独自に想像したくなる。実に魅力的な人物像だと思う。本を読んだ時は、これほど惹かれなかったから、これはやはり映画の影響だと思う。

別にファンという訳ではないし、好みのタイプの女性でもない。私が十代前半の頃、映画「タクシー・ドライバー」の少女娼婦役で華々しくデビューしたと記憶している。あの頃の印象を残しつつも、積み重ねた経験と年齢が見事に昇華した女優だと思う。本のほうが面白いと思いつつも、J・フォスターの演技には完敗です。
コメント (16)
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