もしかしたらインドへは、一生行く事はないかもしれない。
この本も入院中に読んだ。当時は免疫力が健常者の6割程度しかなく、感染症にきわめて弱く、些細なことで風邪を引き、それが肺炎に移行する可能性があり、ほとんど病棟から出れなかった。
だから優れたカメラマンでもある著者の撮ったインドの人々の暮らしぶりに恐怖してしまった。とてもじゃないが、こんな猥雑な社会では生きて行けないと悲鳴にも似た恐れを抱いた。
皮肉なものだと思う。十代の頃は山暮らしが普通で、どんなに生水を飲んでも腹を壊したことがない「鉄の胃袋」と呼ばれた私である。それなのに、免疫抑制剤の多量服用で、抵抗力が低下した身体になった途端、妙に清潔さに拘らねばならないのだから、自分でも戸惑った。
実のところ、私は潔癖症とは程遠い、がさつ者なのだ。長期の登山中なんぞ、味噌汁に虫が飛び込んでも、気にせずに飲み干すほどの無神経な山男だった。不味いものは嫌いだが、食えるものなら何でも食べる食いしん坊でもある。
三週間の長期登山を終えて、山を降り地元の温泉宿で風呂に入ると、凄いことになったものだ。頭を洗えば、湯桶に虫の死骸が浮ぶ。最低2度は石鹸とタワシで擦らないと、垢が落ちない。切り傷、虫刺され、擦過傷などが身体中に刻まれていたが、絆創膏を貼るのさえ面棟Lがり、ほっとけば薄皮が張り、治ってしまう野生児だった。この頃だったら、多分インドでも大丈夫だったと思う。
でも、もう駄目だ。病院へ通う電車のなかで、同じ車両に咳をしている人がいれば、数時間後間違いなく風邪を引いていた。浮「ほどに抵抗力がなくなっていた。毎週病院に通っていたが、待合室で咳をする人がいると、病院に来るんじゃねえ~!と叫びたくなった。あれ?・・・ま、いっか。
20代の時の病気療養は、身体を癒してはくれたが、精神的なダメージまでは癒してくれなかった。本来、インドの猥雑な街並みと人々の暮らしは、人間の逞しさや活気を示すものでもある。それを恐れてしまう私こそ異常なのだ。
結局、少しずつ体力をつけ、人並みに社会復帰を果たすことだけが、私の劣等感を癒してくれた。それにしても、私をここまで怯えさせた著者、藤原新也の洞察力と表現力はたいしたものだと思います。ホラー小説だって、ここまで怯えはしなかった。
この本も入院中に読んだ。当時は免疫力が健常者の6割程度しかなく、感染症にきわめて弱く、些細なことで風邪を引き、それが肺炎に移行する可能性があり、ほとんど病棟から出れなかった。
だから優れたカメラマンでもある著者の撮ったインドの人々の暮らしぶりに恐怖してしまった。とてもじゃないが、こんな猥雑な社会では生きて行けないと悲鳴にも似た恐れを抱いた。
皮肉なものだと思う。十代の頃は山暮らしが普通で、どんなに生水を飲んでも腹を壊したことがない「鉄の胃袋」と呼ばれた私である。それなのに、免疫抑制剤の多量服用で、抵抗力が低下した身体になった途端、妙に清潔さに拘らねばならないのだから、自分でも戸惑った。
実のところ、私は潔癖症とは程遠い、がさつ者なのだ。長期の登山中なんぞ、味噌汁に虫が飛び込んでも、気にせずに飲み干すほどの無神経な山男だった。不味いものは嫌いだが、食えるものなら何でも食べる食いしん坊でもある。
三週間の長期登山を終えて、山を降り地元の温泉宿で風呂に入ると、凄いことになったものだ。頭を洗えば、湯桶に虫の死骸が浮ぶ。最低2度は石鹸とタワシで擦らないと、垢が落ちない。切り傷、虫刺され、擦過傷などが身体中に刻まれていたが、絆創膏を貼るのさえ面棟Lがり、ほっとけば薄皮が張り、治ってしまう野生児だった。この頃だったら、多分インドでも大丈夫だったと思う。
でも、もう駄目だ。病院へ通う電車のなかで、同じ車両に咳をしている人がいれば、数時間後間違いなく風邪を引いていた。浮「ほどに抵抗力がなくなっていた。毎週病院に通っていたが、待合室で咳をする人がいると、病院に来るんじゃねえ~!と叫びたくなった。あれ?・・・ま、いっか。
20代の時の病気療養は、身体を癒してはくれたが、精神的なダメージまでは癒してくれなかった。本来、インドの猥雑な街並みと人々の暮らしは、人間の逞しさや活気を示すものでもある。それを恐れてしまう私こそ異常なのだ。
結局、少しずつ体力をつけ、人並みに社会復帰を果たすことだけが、私の劣等感を癒してくれた。それにしても、私をここまで怯えさせた著者、藤原新也の洞察力と表現力はたいしたものだと思います。ホラー小説だって、ここまで怯えはしなかった。