22年前だった。GW中に三つ峠に行き、フリークライミングの練習をしていた時のことだ。一緒に来た後輩から「足がゾウさんですね」と言われたのがきっかけだった。たしかに、足が太くなっていた。
元来、足は太い。ふくらはぎなんぞ、子持ちシシャモ並みに太い。太ももの太さなんぞ、ラグビー部やサッカー部の連中と張り合えるくらい太かった。もちろん当時は、脂肪ではなく筋肉太りだった。脚力には自信があった。ただし瞬発力に秀でた筋肉で、持久力に欠けるのが難点だった。
とはいえ、たしかに足が太くなっている。別にとりわけトレーニング量を増やした覚えはないから、太ったのだと思った。帰宅して測ると、2ヶ月前よりも5キロは増えていた。翌日から早朝のジョギングを始めた。出勤前のランニングは、けっこう気持ちが良く、いい汗をかいてシャワーを浴びてから仕事に行くのも、いいもんだと考えていた矢先だった。
次第に疲れやすくなっていた。急に運動を始めたせいだと考えていたが、ついに真直ぐ走るのが困難に感じるようになった。出勤後、上司に断って医者に行った。その場で簡単な検査を受け、すぐさま入院を指示された。それも親元の近くでの入院を勧められた。
太ったのではなかった。浮腫みだった。それも異常な浮腫みだった。あたふたと帰京して、近所の病院に入院した。が、翌日には大学病院へ転院となった。このあたりから意識が混濁してきた。以後、2ヶ月間の寝たきり生活を含めて10ヶ月の長期入院。死線を彷徨ったこともあったが、なんとか切り抜けた。ただ、完治はしなかった。
退院はしたものの半年持たずして、再入院で6ヶ月。その次の再発は2ヵ月後、これは短期で退院した。何度も何度も繰り返した再発。
今でも夢を見ることがある。思い出したくもない夢。フラフラとジョギングしている自分。寝返りすら自力では出来ずに、ベッドでもがく自分。移動式の点滴台にすがりながら、ヨタヨタ病棟を歩く自分。グワッと目が覚め、浮腫みがないか確かめる自分。
そんな時は、大概寝汗をかいている。さすがに心臓がバクバクと鳴り響くことはないが、冷や汗に背筋を凍らせていることに変わりはない。
5月は嫌いだ。なぜか、不安にかかられる。足が宙に浮いているような、不安定さに怯えることがある。気の迷いだと分っているが、さりとて不安が消えるわけではない。
私は本来、すごく寝つきがいい。夜行列車の喧騒のなかでも眠れるし、緊急のビバークで、身体をよじりながらでも寝れる。半分水に浸かった状態で寝ていたこともある。子供の頃、親に言われた「怠けクマ」は伊達じゃない。
それなのに、5月は寝つきが悪い。無理に身体を横たえても、安らかな眠りはなかなか訪れない。さりとて、横たわりながら考え事をすると、何故かしら思考は暗い悲観へと沈降する。不安と不満と不眠が、爽やかな目覚めを奪っていく。
昼間が眠くないのなら、不眠でも構わない。ところが、仕事を沢山抱えて難儀している時に限って睡魔が襲ってくる。実に意地悪だと思うゾ。
嗚呼、早く5月が終わって欲しい。
元来、足は太い。ふくらはぎなんぞ、子持ちシシャモ並みに太い。太ももの太さなんぞ、ラグビー部やサッカー部の連中と張り合えるくらい太かった。もちろん当時は、脂肪ではなく筋肉太りだった。脚力には自信があった。ただし瞬発力に秀でた筋肉で、持久力に欠けるのが難点だった。
とはいえ、たしかに足が太くなっている。別にとりわけトレーニング量を増やした覚えはないから、太ったのだと思った。帰宅して測ると、2ヶ月前よりも5キロは増えていた。翌日から早朝のジョギングを始めた。出勤前のランニングは、けっこう気持ちが良く、いい汗をかいてシャワーを浴びてから仕事に行くのも、いいもんだと考えていた矢先だった。
次第に疲れやすくなっていた。急に運動を始めたせいだと考えていたが、ついに真直ぐ走るのが困難に感じるようになった。出勤後、上司に断って医者に行った。その場で簡単な検査を受け、すぐさま入院を指示された。それも親元の近くでの入院を勧められた。
太ったのではなかった。浮腫みだった。それも異常な浮腫みだった。あたふたと帰京して、近所の病院に入院した。が、翌日には大学病院へ転院となった。このあたりから意識が混濁してきた。以後、2ヶ月間の寝たきり生活を含めて10ヶ月の長期入院。死線を彷徨ったこともあったが、なんとか切り抜けた。ただ、完治はしなかった。
退院はしたものの半年持たずして、再入院で6ヶ月。その次の再発は2ヵ月後、これは短期で退院した。何度も何度も繰り返した再発。
今でも夢を見ることがある。思い出したくもない夢。フラフラとジョギングしている自分。寝返りすら自力では出来ずに、ベッドでもがく自分。移動式の点滴台にすがりながら、ヨタヨタ病棟を歩く自分。グワッと目が覚め、浮腫みがないか確かめる自分。
そんな時は、大概寝汗をかいている。さすがに心臓がバクバクと鳴り響くことはないが、冷や汗に背筋を凍らせていることに変わりはない。
5月は嫌いだ。なぜか、不安にかかられる。足が宙に浮いているような、不安定さに怯えることがある。気の迷いだと分っているが、さりとて不安が消えるわけではない。
私は本来、すごく寝つきがいい。夜行列車の喧騒のなかでも眠れるし、緊急のビバークで、身体をよじりながらでも寝れる。半分水に浸かった状態で寝ていたこともある。子供の頃、親に言われた「怠けクマ」は伊達じゃない。
それなのに、5月は寝つきが悪い。無理に身体を横たえても、安らかな眠りはなかなか訪れない。さりとて、横たわりながら考え事をすると、何故かしら思考は暗い悲観へと沈降する。不安と不満と不眠が、爽やかな目覚めを奪っていく。
昼間が眠くないのなら、不眠でも構わない。ところが、仕事を沢山抱えて難儀している時に限って睡魔が襲ってくる。実に意地悪だと思うゾ。
嗚呼、早く5月が終わって欲しい。