ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「銀河パトロール隊」 E・E・スミス

2007-06-02 15:27:16 | 
私は中学生の頃、一番夢中になって読んでいたのはSF小説だった。なかでも、スペース・オペラと称された宇宙活劇ものにはまっていた。ちなみにスペース・オペラとは、アメリカで大人気だったカウボーイものをホース・オペラと呼んでいたことのもじりだ。

ハミルトンが一番のお気に入りだったが、表題の作品の著者であるE・E・スミスも好きだった。スカイラーク・シリーズが有名だが、私自身はこのレンズマン・シリーズが好きだった。

第二次大戦後、アメリカが絶頂期であった時代を背景に書かれたものだけに、能天気なまでの正義感を振りかざすストーリーだ。さすがにこの年になると、その独善ぶりに不快感を禁じえない。が、レンズマンに関する限り、それほど気にならない。

一つには、敵方であるボスコニアの勢力を単純な悪の勢力ではなく、異なる価値観をもつ文明として描写していることだ。読者受けを狙ってか、当初は残忍な宇宙海賊としていた。しかし、話の進行に伴い背後に異なる二つの超越的存在を置いて、その代理者としての戦いという構図を設定したことで、物語に深みをました。

もう一つは、人間だけでなく、異生物を友人として、あるいは人間より優れた生き物として描いたことで、かえってSFとしての面白みを増したことがある。人間が一番偉いとする風潮に、釘を刺したと感じた。

SFに詳しい方ならご存知だと思うが、当時のアメリカには白人至上主義的な匂いが確かにあった。当然に人間こそ、宇宙で一番優れた生き物の地位を占めるのは必然とする雰囲気さえあった。その代表はSF雑誌の編集長でもあったキャンベルだと思うが、スミスは一線を画していたように感じる。キャンベルはSF小説の地位向上に大きく貢献した出版人だとは思う。子供向けの娯楽作に過ぎなかったSFを、大人の鑑賞に堪え得る作品に高めた功績は私も認める。

しかし、それゆえにスペース・オペラを馬鹿にして、排除する編集方針を掲げた。皮肉なことに、そのスペース・オペラにおいて、白人至上主義に毒されない作品が書かれていたのだからおかしなものである。

大河SF小説の趣さえあるレンズマン・シリーズだが、なぜか日本では不遇な作品でもある。何度か漫画化されたこともあるが、時節に合わなかったのか、あるいは作画者の選定ミスか、人気を得るには至らなかった。馬鹿にされることの多いスペース・オペラだが、今でも十分楽しめるだけの内容はあると思う。幸い東京創元社が、最近復刻して書店に売られている。もし機会がありましたら、是非どうぞ。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする