ヌマンタの書斎

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「金で買えるアメリカ民主主義」 グレッグ・パラスト

2007-06-15 12:16:49 | 
基本的にギャンブル(賭博)では親(胴元)が強い。

やはり場を仕切る立場が強いのは、どんなギャンブルでも同じことだと思う。なによりも、自分に有利なルールを設定できる。これぞ究極の勝利の方程式だ。

ギャンブルだけではない。選挙だってルールを都合よく設定すれば、特定の者に有利な結果を出せることを指摘したのが表題の本だ。一応書いとくが、やりたいものだけがやるギャンブルと、民主主義を標榜する国家の選挙は大きく意味合いが違う。

アメリカ大統領ジョージ・ブッシュJrが大統領選に初勝利したのは6年ちかく前だが、ギリギリの勝利であったようだ。特に大票田フロリダでは、民主党の対立候補アル・ゴアとは数百票の僅差での勝利だった。

しかし、著者グレッグ・パラストは主張する。もし、本当に公正な選挙ならば、勝ったのはゴアだったと。ゴアに投票したと思われる有権者の投票権を奪ってしまったことが、ブッシュの勝利につながったと。

仕組みは簡単だ。投票人名簿に手を加えただけだ。たとえば犯罪を犯したものの投票権を凍結することは適法だが、その期限がなぜか法で定めた期間を超えて設定されていた。当然、本来投票できるはずの人が投票できない。似たような仕組みをいくつも仕込んだのが、ブッシュ・ファミリーたちだ。

彼らのターゲットは、共和党の政策に批判的な人々だ。有色人種、マイノリティ、貧困層といった民主党よりの人々の投票権を奪うことで、大統領選挙を優位に戦ったとグレッグは主張する。

私がこの本を図書館で借りて読んだのは5年前だ。その後「華氏911」や「アホで間抜けなアメリカ人」などで知られるマイケル・ムーアが分かりやすく、小ばかにする内容で同様のことを書いたので、こちらで知った人のほうが多いかもしれない。ですが、出来るならグレッグ氏の著作のほうを読んで欲しいと思います。こちらのほうが、より綿密な調査に裏づけされており、説得力もありますから。

残念ながら、巨大メディアに支配されるアメリカでは、ほとんど無視されましたが、なぜかイギリスで高く評価された本でもあります。硬質なジャーナリストとは、かくあるべしの手本となる人物だと思います。ところで日本ではどうか?

実は図書館に返却した後で、再び読み返したくなり、探したのですが、なかなか見つからず難儀した本でもあります。大手の書店はほとんどが品切れ。かといって再版を繰り返した形跡もない。なんとなく、意図的なものを感じて不気味に思ったくらいです。

小泉首相が、ブッシュ政権と親密であったのは周知の事実ですが、そのブッシュに批判的なこの本が、日本のメディアのなかで、このように扱われていることに、言いようの無い醜悪さを感じました。この本がいわゆる「トンデモ本」ならば仕方ないのでしょうが、どうもそうは思えない。グローバリズムや石油戦略なども取り上げて、大手マスコミが報じない事実を詳細に書き記したこの本は、無視して消え去るのを待つのが最良な選択だったのでしょうかね。

だからこそ、こういった本は読む価値があると思うのです。ただし、この本の内容をどう判断するかは読者の良識に任せたいですね。多分、読み手を選び、読み手の見識を問う本だとも思います。機会がありましたら、是非ご挑戦あれ。
コメント (4)
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