ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「破戒」 島崎藤村

2007-06-18 09:35:42 | 
読んだだけでは、分からないことって結構あると思う。

ある不動産の評価をするために、東京近県のK市を訪れた。事前に地図や路線価図でみると、評価の対象となる土地の評価額が、周囲と比べてやけに安い。路線価の設定間違いかと思い、公示価格を調べると、やはり同様に低い価格となっている。

幸い依頼者と会う機会を得たので、ついでに現地に赴き見てみることにした。行ってみて驚いた。K市は関東では古くから知られた町で、お屋敷と称してもおかしくない立派な家も多い。駅から続く商店街は、多少うらぶれてはいるが、住宅地は閑静で品のいい町並みだ。

ところが、私の目的の土地の周辺は、明らかに安っぽい風情が印象的だった。川沿いの緑豊かな低地なのだが、木造やバラック造りの平屋ばかりで、他の市街と比べても貧民街の匂いが濃厚だった。

勘の良い方は、もうお気づきだと思う。そう、ここは部落だった。車を降りると、妙な臭いが鼻をつく。牛や豚の皮をなめす時に出る、独特な臭気だ。嗚呼、ここが被差別部落なんだと実感した。だからこそ、これほどまでに土地の評価額が低いのかと納得した。

率直に言って、軽いカルチャー・ショックを受けました。知識としては知っていましたが、現実に目にするのは初めてだったからです。私が生まれ育った地域では、韓国人居住区や朝鮮人学校はありましたが、被差別部落はありませんでした。だから、同和問題は遠い話で、表題の本も読んだことさえ忘れていたくらいです。

帰京してから週末、図書館で探しましたよ。半日で再読を終えましたが、高校生の頃読んだ時とは読後感が全然違いました。あのくすぶった低い町並みを見て、あの独特の臭いを嗅いだだけなのに、これほど違うとは驚きでした。藤村がこの本を書いたのは、かれこれ半世紀以上前なはず。今でもある現実に、哀しい驚きを禁じえませんでした。

いろいろ思うことはあるのですが、今の私に言えるのは一つだけ。私はいわれ無き差別を受けるのは嫌です。だから他人を差別しないようにしたい。それだけです。
コメント (10)
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