ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

「がんばれ元気」 小山ゆう

2007-06-07 09:30:44 | 
「喧嘩に強くなりたいなら、ボクシングをやれ」

背中に昇り龍の刺青がカッコよかった近所の小父さんに言われた科白だ。銭湯でよく会う人で、その広い背中を流してあげると、いつも帰り際にジュースを奢ってくれた。秋の祭りでは、一番目立つ場所で神輿を担ぐ人だった。私が庭掃除の小遣い稼ぎをしていたお屋敷では「代貸し」と呼ばれていた。

要するにヤクザなのだが、どちらかといえば博徒の方がふさわしかったと思う。私は一度だけ、この人が喧嘩を仲裁しているところを見たことがある。路上で20代ぐらいの若い衆が、目を怒らせて殴りあっていた場面に、ぬっと現れた。一人の腕をとったと思いきや、あっというまに投げ捨て、もう一人を頭付きの一撃で片付けた。そして周囲の野次馬に「怪我した方はおりませんか?」と丁重に声をかけ、連れの若い衆に片づけをさせて立ち去った。

当時、小学生だった私らガキンチョどもの憧れの人であった。風呂上りに「喧嘩に強くなるには、どうしたらイイの?」と尋ねると、返ってきた答えが冒頭の科白だった。もっとも、どこでボクシングをやったらいいか分からなかったので、すぐに忘れてしまった。

中学に入り、ボクシングをやっている奴にコテンパンに殴られた。小学校の頃には、一度も負けたことのない奴だったので、えらくショックだった。腫れ上がった顔を冷やしながら思い出したのが、冒頭の科白だった。冷静に振り返ると、距離感がまるで違う。一歩半離れた距離から、なぜか拳が飛んできて当たる。どうやら左ジャブという奴らしい。

続けて負けるのは、やばいのでいろいろ調べた。ボクシングのトレーニングの組み立てに感心した。よく出来ていると思った。後から追いかけて学んだのでは、追いつけないと諦めた。当時、世話になっていた香具師のアンチャンに相談すると、「足を殺せ」と言う。要するにフットワークを使えない場所で、喧嘩をふっかけろと・・・なるほど。左ジャブは全部おでこで受けて、足だけを狙えと忠告された。

考えたあげく、結局神社の境内へ続く、緩やかな階段で喧嘩をふっかけ、野郎が戸惑っているうちにつっかけた。何発かいいパンチをもらったが、なんとか捕まえて膝を極めてギブアップをとった。でも顔面腫れ腫れ。どっちが勝ったのかわからない結末に、正直落ち込んだ。以来、ボクシングへの警戒感は強い。

普通、ボクシングの漫画といえば「明日のジョー」なのだろうが、私は週刊少年サンデーで連載されていた「がんばれ元気」の方が印象が強い。不良の匂いなんぞ、まったくしない健全少年のボクシングに取り付かれた姿が忘れがたい。不良少年の矢吹ジョーへのアンチテーゼなのかと勘ぐったこともある。

今、読み返すと10年以上チャンピオンの座にある父の宿敵や、まったく老けない芦原先生に少々違和感はある。それでも感動したのは、たいしたものだと思う。特に最後がいい、あれはいい。さわやか過ぎることが少々鼻に付くが、それでも最後は納得できる。引退するボクサーの姿は人それぞれだが、あれは堀口元気以外ありえないエンディングだと思う。

でもね、最後になんだが、芦原先生逃げるなよ。十代の頃は読み流していたが、今にして読み返すと、なんか腹立つぞ。時々いるよね、別れを綺麗に飾る女性って。八つ当たりくさいけど、やっぱ腹立つ。思い出しちゃったじゃないか・・・
コメント (13)
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