ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

自然の逞しさ

2011-05-12 15:43:00 | 社会・政治・一般
日頃、TVを観ないと公言しているが、良く出来たドキュメンタリー番組を観るのは好きだ。

大嫌いなNHKではあるが、ここの自然風土を撮影した番組はけっこう良く出来ていると認めている。でも、やっぱり凄いなと思うのは、イギリスのBBC制作のものだ。

なかでも出来色だったのが、25年前の事故で悪名高いウクライナのチェルノブイリ原発のその後を追った番組だった。たしか一昨年あたりにCSで放送していた。

好天気の下での撮影にも関らず、コンクリートで覆われた原発の映像は、暗く歪んだ印象が強く、改めて放射能事故の恐ろしさが実感できた。

どうやって取材許可を取ったのか分らないが、原発間近まで迫っての撮影は、胃の辺りに冷たいしこりが生じるかのような、重く息苦しい印象が忘れ難い。

ところがだ、生物の気配が一切無いような原発周辺でも、苔などの地衣類などは逞しく繁茂していて、放送スタッフや同行した科学者らを驚かせていた。

よくよく考えてみれば、現在の地球は厚い大気圏に包まれ、その周囲に強力な磁気を帯びた空間に囲まれていて、宇宙からの強烈な放射線を防いでいる。

しかし、40億年を超える地球の歴史の中では、生物に有害な放射線が地上に降り注いでいたと思える期間は、相当に長く、また地磁気や大気圏に覆われていた時期であっても、なんらかの理由で生物に有害な強エネルギーを伴う放射線が地上を襲ったことがあることは分っている。

しかし、原始的な生物でもある地衣類などは、その厳しい環境下にあっても生き延びてきた。いや、地衣類だけではない。BBCの短期間の取材であっても、立ち入りが禁止された地域に、生物が生存していることがはっきりと分った。

とりわけ原発から5キロ以上離れた立ち入り禁止区域は、今や野生の楽園と化している。木々は生茂り、地上は潅木で覆われ、取材班はやむなく獣道を進む。

そこで出遭った鹿や猪などは放射能障害の影響を感じさせない逞しい姿を、カメラの前に見せつける。大地は腐葉土で覆われ、昆虫類が多数生息して、それを食べる雉などの鳥が数多く見受けられた。

そこには、未だ放射能が残留しており、人が長期間立ち入ることは好ましくないとされている。そのため、人家などは荒廃しており、木造の家屋はほぼ半壊。コンクリート製の堅牢な建造物でさえ、入り込んだ植物の根でほじくられ、ひび割れは拡がる一方であり、いずれは崩壊すると思われる。

人が住まぬ家屋は、野生生物の住まいと化し、逞しい自然の侵略に為すすべなく崩れていく。驚かされるのは、放射能の影響による奇形などの症状を示す生物が皆無であったことだ。

取材に同行した科学者は、奇形を生じた生物は弱肉強食のなかで、自然淘汰されてしまったのではないかと述べていた。私もその可能性は高いと思います。もっともウクライナ当局による報道規制も疑いました。

しかし番組のなかでは、被爆して白血病や癌を発病したウクライナの人々の映像もありました。動植物に関してだけ異常を報道しないのも不自然ですから、野生の生き物の逞しさと厳しさに胸を打たれたものです。

ところで、3月の東日本大震災以降、チェルノブイリに関する報道も、ちらちらと散見しますが、どれも被爆の恐浮驍謔、なものばかり。

この番組、もう一度再放送してくれないものですかね。出来たら地上波でも放送して欲しいものです。そして、自然の逞しさを再確認して欲しいものです。

おそらく、いや間違いなく、福島原発周辺の立ち入り禁止区域は、十数年後には自然の楽園になっているでしょう。失ったものは戻りませんが、新たな再生に期待を抱きたいと思います。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする