ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

まんだら屋の良太 畑中純

2012-06-26 12:02:00 | 

明るくスケベって、どうなのさ?

なんとなく納得できない。スケベなことって陰湿なほうが良くないか?明るく開放的で快活なスケベって理解しかねる。やっぱり暗くて閉じ籠ったところで、密かにやるべきではないのかと私は思っている。

実際、輸入物の裏ビデオでアメリカの若き男女が、軽快な音楽にのってリズム良くスケベしている映像を観て、こいつら馬鹿じゃないのかと思ってしまった。たしかに男性が元気いっぱい逞しい体つきで、笑顔でエッチしている。これじゃァ、エアロビックスと間違えそうだ。

素晴らしいプロポーションの女性は、明るい室内でいかにも楽しげにエッチしているが、あたしゃ、ちっともいやらしさを感じることが出来ず、むしろ不満をため込んだ。こんなんじゃ、楽しくないよ!全然スケベじゃないし、むしろ滑稽に見えるぞ。

同じ輸入物の裏ビデオでも、ヨーロッパのものは一味もふた味も違った。陰湿な室内に、ほのかに灯る明かりが、うっすらと汗に濡れた裸体を照らす。期待に胸躍らせて、思わず画面に近づきたくなるが、気が付くと明るさが増している。

そこに繰り広げられる隠微な映像こそ、人の性本能を具現化した姿そのものであり、これでこそスケベ心は満足するってもんさ。うんうん、大金、はたいた価値があったと満足である。

裏ビデオと書いたが、アメリカものヨーロッパものも年齢制限こそあれど、どちらも正規のメーカーが製作したものだ。裏となったのは、日本の馬鹿げた性器規制によるものだ。

性器が見えなければ良しとする日本の倫理基準の愚かさはさておいても、私がつまらなく感じたアメリカのエロビデオは、健全さを装い過ぎる。明るく健康的なことが、良いことだとの、単純にして愚かしい思想が透けて見える。

その点、わざと薄暗くしたり、光の加減で隠したりするテクニックを駆使するヨーロッパは、スケベの本質を良く分かっている。あまりに健全さを強調すると、むしろスケベさは薄れてしまう。

アメリカがキリスト教原理主義の国であるがゆえに、倫理的に厳しくあらんと建前を振りかざすのは分かるが、建前は本質を隠し、やもすると本質を暴走させる契機になりかねない危うさを持つ。

性本能は、人が人である限り捨て去ることは出来ず、必要以上に押さえつければむしろ反動が大きいものだ。

なぜ性本能を抑制し、年齢制限を含めて隠すようになったのかといえば、それは近代化が原因である。近代になり高度工業社会となると、どうしても人材に高度教育が必要となる。初等学校だけでは不足で、大学のような高度なレベルの教育を産業界が必要とする。

だからこそ、青年期での性本能は抑制されねばならない。産業革命以前は、世界中ほとんどの国で十代半ばは婚礼可能年齢であった。子供が沢山いることが労働力の増加を意味し、そのために早くから婚姻出産に励むことは社会の期待に沿うことであった。

しかし、若者へ高度教育を施さねばならぬ故に、十代後半から20代までを学業に集中させるためには、性本能への刺激は抑制されねばならない。その一方、農業等の一次産業が中心の社会ならば、性本能はおおらかに受容され、都市社会ほど抑制されることはなかった。

それは現代の日本でも、そう変わっていない。私は東京生まれの東京育ちの東京原住民だ。都会っ子でもあったが、性に関しては奥手であり、抑制というか我慢することが常識であった。

ところが、驚いたことに地方出身の若者たちは、都会っ子よりも性に関しては進んでいて、大学生の私よりも年下なのに出産経験がある年下の少女に驚かされたことがある。彼女は淡々と「他に楽しいこと、なかったしね」と言っていたが、受験勉強に励んでいた私が気おくれするほどの床上手であった。

まァ、実のところ都会でも大学受験とは無縁の連中ほど、性に関する経験は進んでいる。私は意識して遠ざかるようにしていたが、暴走族のアンチャンたちや、タケノコ族の女の子たちは、たしかに性経験に関しては進んでいたようだ。

そのせいかもしれないが、表題の漫画を知った時は、もしかしたら本当にこんなスケベな温泉宿の町があるかもしれないと、妙な期待を抱いてしまった。勉強なんざろくにやらず、親の手伝いの仕事ばかりしていたら、空いた時間は性本能を満たしたいと思っても当然だと思う。

いいよなァ、深夜の温泉で混浴なんてと、スケベな妄想を膨らませたものだ。後年、東京近郊の温泉宿に行ってみて分かったのは、そんな時間に混浴温泉に入るのは、スケベ中年と、それをケラケラ笑い飛ばすおばあちゃんたちだけだという現実だった。

この漫画が連載されていた当時、下手な絵だよなァと呆れていたが、今にして見直すと版画にしたくなるような味わいのある絵だと気が付いた。今だったら漫画家未満の若者でさえ、もっと上手に綺麗に絵を描くと思うが、これだけ味わいのある絵は描けないだろうとも思う。

先日、作者の訃報が伝えられました。私はこれ一作しか知りませんが、日本の田舎情緒を感じさせるスケベな画風には、今さらながら感心させられます。

コメント
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