ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

隣の芝は綺麗に見える

2012-06-21 12:58:00 | 社会・政治・一般
先月のことだが、ある知人の方がアメリカから一時帰国した。

日本生まれの日本人だが、学生時代に留学したアメリカを気に入ってしまって、就職もアメリカでして数回の転職後も当地に留まって仕事を続けている。今回は、親族の葬儀ということで帰国されたようだが、たまたま機会があって山梨の温泉地への旅行に同行することになった。

アメリカ西部の乾燥した地域に住んでいるだけに、新緑が瑞々しい風景に盛んに感嘆していた。日本語が母国語ではあるが、なんとなく会話のリズムが違っているように感じたのは私だけではあるまい。

その彼が一番感心していたのが、高速道路の滑らかな路面のことであった。

これは意外だった。ご存知の通りアメリカは自動車なしでは暮らせないハイウェイ大国でもある。片道(!)6車線道路のハイウェイが縦横に走るロス周辺は別格だが、地方へ行っても、立派に舗装された自動車道が用意されている。

しかし、その知人に言わせると道路整備に金をかけていないので、路面が荒れてしまっていると言う。東京近郊とはいえ、地方都市の高速で、これほど綺麗に整備され、凸凹もない道路を走るのは、実に爽快だとしきりに感心していた。

アメリカでは車高の高い四輪駆動車に乗っているのは、路面が荒れているからなんだと少し寂しげに語っていたのが印象深かった。

実を言えば、アメリカの道路、橋、上下水道、ガス管などの公共財は今危機的な状況の一歩手前にある。アメリカという国は、19世紀の終わりから20世紀半ばにかけて飛躍的に近代化を進めた。

だから、建築されて100年近くたっている公共財は少なくない。コンクリートはしっかりと打てば数百年持つとされているが、それはしっかりとメンテナンスを受けてこそだ。その負担はアメリカ市民の税金で賄われる。

税金の使途についての納税者の関心の度合いは、日本をはるかに上回る。無駄遣いを厭う傾向は非常に強い。それは良いことのように思えるが、メンテナンスのような目に見える効用の少ない支出を控える傾向が強いことは、以前から指摘されていた。

その結果、老朽化が進んだ橋や、腐食による水漏れが断水につながるほどの水道管など、市民の日常生活に支障が出るほどになっている。こうなると大規模な営繕が必要なのはもちろんだが、場合によっては再構築が必要ではないかと思われる。

そこで問題になるのが財源だ。ブッシュ、クリントン、オバマと政党問わず、増税を控える傾向が強いのは、民主主義の仕方ない側面ではある。だが、財源不足から道路や橋、上下水道のような公共財が痛んでいくのは、むしろ悪い側面だと言っていい。

この問題のもう一つの側面は、アメリカが隠れた公共事業市場を膨大に持っていることにある。以前CS放送でのアメリカの水道管の腐食問題を取り上げた番組で登場した大学研究者が言及していた。

うろ覚えだが、その研究者は膨大な公共財メンテナンス事業は、失業対策のみならずアメリカ社会の健全化にも大きく寄与するはずだと言っていた。私もそう思う。だが、アメリカの有権者すなわち納税者が、それを認めるかどうかは別問題だろう。

振り返って我が日本はどうだろう。毎年年度末になると、駆け込みの公共事業で道路は渋滞することに不満を持つ人は多いと思う。本当にその工事、必要なのか?と思わざる得ないほど工事は多い。

私が以前、自治会の副会長をしていた時だが、給水塔のペンキ塗り工事があり、修繕積立金を取り崩しての大鰍ゥりなものであった。ところが、その工事の翌年、その給水塔の大規模営繕工事の予定が組まれていたことを知り、自治会で大騒ぎになった。

いったい前年のペンキ塗りはなんのためだったのか。我々が毎月支払う共益費の無駄遣いは許せないと、都公社に押しかけての騒ぎになったのは必然であった。その結果、分かったのはペンキ塗りを企画した部署と、大規模営繕工事を担当する部署が違うことであった。

同じ建物にあって、部署が違うというだけで、それぞれ別個に調整もせずにメンテナンスをやっていたことが判明した時は、怒りよりも脱力感のほうが強かった。結局、大規模営繕のうち重複していた外壁部分だかを省いて、その計画は実施された。もし黙っていたら、同じ個所を二回もペンキを塗りなおす無駄が行われていたであろうことは明白だった。

多分、似たような無駄な公共工事、けっこうあるんじゃないのか。ただ、冷静に考えてみると、冒頭に挙げた話のように快適な高速道路の路面は、毎年のように行われる公共工事によって維持されているのも事実。

アメリカのように、メンテナンスを無駄とされて荒れた道路は困るが、日本のように重複するような無駄なメンテナンスが多いのも困る。世の中、難しいものだと思わざる得ません。
コメント (4)
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