公認の民間軍事組織が増加していることに、もう少し関心を持っておいたほうが良いように思う。
日本政府は既にソマリアや東チモールで民間軍事会社(通称PMC)を活用している。つまり日本国民が納めた税金が、海外の現代版傭兵組織に支払われているわけだ。
日本政府が如何に平和憲法なんて無視しているかがよく分かる。同時に憲法改正などに大反対している平和愛好市民たちが、如何に現代の戦争に無知であるかが良く分かる。
実際のところ、PMCは現代版傭兵組織なんてものじゃない。その枠をはるかに超えた過去に類例のない存在となっている。テロとの戦いにおいて重要なのは軍事行動だけではない。警察や司法組織などの平時の治安機構こそがテロの抑制に有益である。
しかし、従来の軍隊はそのような任務には向いていない。そこでイラクや旧ユーゴでは、PMCが警察組織の構築、行政機構の再編まで取り仕切っている。軍隊とは、どこの国でも官僚組織そのものであり、それゆえに硬直化しやすく臨機応変な活動には不向きだ。
そこで民間から有能な人材を雇い、その国の社会に応じた警察や行政組織を作り、訓練を施すような業務にはPMCが活用される。今や一大産業であり、軍事費の削減に悩むアメリカ軍だけでなく、他の多くの国からも依頼が殺到しているのがPMCなのである。
今や駐留基地の構築、食料や武器、燃料などの輸送、管理までもPMCが取り仕切ることは珍しくもない。それどころか、ハイテクの塊であるミサイルや無人偵察機などの操作、メンテナンスは現役の軍人では手に負えず、PMCに外注して運用している有様である。
だが問題も多い。まずやり玉に挙がったのが不適当な過大請求である。予算を議会が厳しく管理するアメリカでは、PMCからの請求書が適切とはいえないケースが議員たちにより発覚して問題となっている。
またイラクで問題になった捕虜に対する違法な尋問と拷問には、PMCが深く係っていたことも判明している。軍隊なら軍事裁判だが、PMCに対しては想定外なゆえに従来のシビリアン・コントロールが効かず、法的な地位さえも不確定である。
またPMCと軍との連携不足からくる事故も絶えず、味方から攻撃されての死傷事件も発生している。当然に敵からの攻撃にさらされて損害も出し、軍とPMCとの間での情報のミスマッチも問題となっている。
ご存知のかたもいるだろうが、日本人がPMCに雇用されイラクなどで業務に就いて、そこで攻撃を受けての死傷事故も発生している。民生技術では定評ある日本企業が、PMCから依頼を受けての輸出入もあるようで、従来の法規制の抜け道として活用されている。
平和志向の強い日本でさえ、民間の軍事組織を利用しているほど広く世界中で活躍しているのだ。アメリカ軍などPMC抜きでの軍事行動はありえないし、これはヨーロッパのみならずアジア、中東、中南米でも同様である。
その背景にあるのは軍事的脅威の質的変貌にある。20世紀までは国家対国家であり、西側自由経済諸国と、ソ連シナの東側社会主義陣営との対決であった。どの国の軍隊も、そのことを前提とした軍事組織を構築し保有していた。
しかし21世紀の軍事的脅威は、少数の武装集団による破壊活動、すなわちテロとの戦いである。私服をまとって一般市民に紛れて爆発を起こし、社会を不安定化させるこれらのテロリストは、世界中至る所に拡散しており、巨大な軍隊組織ほど小回りが利かないが故にテロに対しては後手後手にまわる。
20世紀には有効であった軍事組織は、その大きさゆえに巨大な官僚機構と化し、予算と組織に縛られる。一方、民間企業であるPMCは、高給でベストのスタッフ(多くは特殊部隊出身の軍人だ)を雇い、柔軟に組織を作り替え、最新の兵器さえ使いこなすだけでなく、警察官の訓練や公共施設の建築までも請け負う。
少人数の武装集団であるテロリストとの戦いにおいては、正規の軍隊以上の実力を発揮するのがPMCであり、テロの温床たる不安定な社会を再建する役割までこなすPMC抜きでの戦争はありえない。
だが、私は怪しんでいる。古来より王様が一番警戒したのは、本来味方であり国内外を問わず自らを守ってくれるはずの軍隊が裏切り、王の座を奪おうとすることだった。それは現代においても変わりなく、エジプトでもタイでも軍事クーデターが起きて政権交代が起こっている。
だからこそ、近代国家は法制度と組織運用を固めて軍隊が勝手をしないように縛ってきた。もはや先進国では軍事クーデターは不可能に近い。その状況を一変しかねない可能性をもつのがPMCではないか。
私は21世紀は、食料危機と水資源争い、そして化石燃料の争奪戦の時代だと予測している。いつの時代でも戦乱の時代には、古い国家が滅び、新しい国家が勃興する。PMCはその戦乱の時代に大きな役割を果たすのではないか。そう考えています。