内閣府が2014年12月8日に発表した7~9月期のGDP改定値(季節調整済み)は、年率換算で1.9%減(実質ベース)で、速報値から下方修正。物価の影響を反映し生活実感に近い名目GDPも、前期比0.9%減(速報値0.8%減)、年率換算で3.5%減(3.0%減)と下方修正された。
多くのエコノミストが予測を外したようだが、私はある意味当然だと思っている。統計数値の調査に応じるのは、人手に余裕がある大企業が中心であり、国内企業の大半を占める中小、零細企業はそんな調査に応じている余裕はない。
アベノミクスは大企業と資産家に対して大きな効果があったのは確かだ。しかし、中小、零細事業者に及んでいないこともまた確かなのだが、これは統計数値に表れにくい。
特に大企業が設備投資を増やせば、その流れで中小企業にも波及するのが自然な流れだと思い込んでいたことが、今回の予測を外した大きな要因だと思う。なぜ、中小企業が設備投資に及び腰かといえば、先行きの見通しに不安だからであり、また銀行が資金需要に応じないからでもある。
しっかりと財務諸表を作成できる大手企業と異なり、毎月の試算表でさえ作れない中小企業は案外と多い。現在の銀行は、財務諸表分析を基にした与信により融資を決定するから、どうしても中小企業融資には積極的ではない。
私の実感だと、メガバンクよりも地銀や地元の信用金庫のほうがよっぽど企業融資に前向きなのだ。ただし、借りる必要がない優良企業に、融資を申し込ませての妙な実績作り融資も少なくないので、私は統計数値をあまり信用していない。
やはり現場を地道に歩き、実際に中小企業の経営者から話を聞くのが、一番信用が出来る。
だからこそ、私は秋口に出ていたGDP予測に疑問を感じていた。企業経営者の苦しい胸の内を明かされていた私には、とてもじゃないが景気の回復基調などは感じとれなかったのだ。
ただ、大企業が好調であることは、下請け先の忙しさから察することが出来た。問題はその忙しさに見合うお金が、下請け企業に流れているとは思えなかったことだ。
安倍内閣は、実質賃金の増加を目標に掲げていたが、私のみたところそれが実施できたのは大企業とお役所だけだ。後は実質据え置きならいい方で、下手すりゃ一時解雇とパートとしての再雇用さえ見受けられた。
ちなみに、これは今年9月の社会保険の値上げによる悪影響を避けるためである。総額が変わらないのに、天引きされる社会保険だけが値上げされたら、手取りの賃金は減るばかり。だから、社会保険から抜けても手取り額を確保したい労働者の要求に応じたものでもある。
それほどに厳しい状況なのに、GDPの速報値には、それをまるで感じることは出来なかった。私はあの速報値に恣意的な修正があったかどうかは知らないが、実態経済からはかけ離れていることだけは理解できていた。
だから12月に改定値が発表されたときも、それほど驚きはなく、むしろ当然との思いのほうが強かった。霞が関の広報誌化している日経はともかくも、他の大手マスコミにもろくな報道がない。まったくもって情けない限りである。
原因は分かっているつもりだ。大手マスコミの記者たちは多忙を極め、官庁が発表した統計数値を疑い、自ら足で調べて検証するような手間暇かかる作業をしていないからだ。
そのくせ、経済に関するスペシャリストを気取っている記者もいるのだから失笑を禁じ得ない。統計数値は嘘を付かないなんて幻想にすがりつくのは止めて、自分の足で動き、自分の目で見て、自分の耳で町の声を聞いてみろ。
それをやらない人間が記者だと名乗るなんて、おこがましいと思うぞ。