老人は無駄遣いをしない。
一言で云えば、これこそがデフレの正体であるようだ。
たしかにこの十年余り、バブルの崩壊から戦後最長の好景気と、リーマンショック後の停滞。統計数値が示す景気判断に納得できないことが多かった。だから、この本の著者がいうように高齢化こそがデフレの正体だと明言されると、思わず動揺してしまう。
率直に言って、一理あると思う。また著者が述べる対策として① 生前贈与の拡大 ② 女性労働者の積極的活用 ③ 若い世代への所得増加などは、最後の③を除いて、既に政府も同様の対策を打ち出していることから、それなりの説得力はある。
ただし、著者のマクロ経済に対する批判が弱い。批判そのものはかなり説得力がある。しかし、その題材であるデフレの定義が、どうみてもマクロ経済の定義とは、いささかかけ離れているために、論理構成が不十分だと批判が出るのは必然だと思う。
そのせいで、この書は世間に名の通ったエコノミストや経済学者から非難轟々である。
もっとも私からすると、そのエコノミストの提言するデフレ対策はどれも効果が不十分だし、経済学者の最近の日本経済に関する見解にも同意しかねるものが多く、むしろ人口の波による経済波及効果を強く主張する著者の見解は、十分傾聴に値すると思っている。
人類が文明を打ち立ててから、概ね三千年余となる。その間、人口が大幅に減少することは幾度となくあった。しかし、現在の日本が直面するように高齢者だけが突出して拡大し、若い世代が縮小するような特異な状況は、ほとんど経験がない。
実のところ、西欧、特に北欧諸国やドイツ、フランス、イタリアなどでは既に起きている現象ではある。日本はその後追いなのだが、どうみてもヨーロッパ諸国の抱える年代の偏りと、それに伴う経済の停滞の内容が違うように思える。
地続きの西欧と、島国で外国人の流入が少ない日本との違いはあるのは分かる。しかし、それだけでは説明できないのが、今の日本の不活性な経済なのだと思う。
私自身、近年の日本の経済の変動と変化を、自分自身が納得できるほど理解しかねているのが本音である。だが、この本を読むことで、少し理解が進んだように思う。著者の言うように、相対的な比較数値だけでなく、絶対値を認識して、その変化と意味を直視する必要性はあると思った。
いろいろと批判多き本であることは承知しているが、私はけっこう勉強になったと考えています。