プロレスってさ マレンコ・ブラザーズ

日本で花開いたプロレスラー、それがマレンコ兄弟であった。

実の兄弟であり、兄のジョー・マレンコは身長１８０㎝、体重１０４キロで、弟のディーンは身長１７２㎝、体重９６キロだから、アメリカ人プロレスラーとしては小柄といっていい。ただし、強さはスーパーヘビー級であった。

彼らの父ボリスはアメリカプロレス界では「チェーン・デスマッチの鬼」と云われた悪役レスラーだ。ただし、レスリングの実力はトップクラスで、あのカール・ゴッチとは仲が良く、ボリスがプロレスのジム通称マレンコ道場を始めた時には、ゴッチもコーチとして協力している。

このカール・ゴッチの薫陶を最も受けたと云われているのが、ジョー・マレンコであった。後年、リング上で対戦した鈴木みのるが「まるでゴッチと対戦しているみたいだった」と言うほど、そのガチガチの頑固なストロングスタイルのレスリングで知られている。

そして、それはアメリカンプロレスの本流ではなかった。そのことを分かっていたジョーは、日本に渡り、プロレスラーとして活躍することになる。彼らアメリカ人プロレスラーは知っていた。日本では技と力の攻防を展開するプロレスが好まれることを。

その実力は当初は分からなかった。使っている技が、もの凄く地味で、素人には分かりづらかったからだ。しかし、マットの上での攻防が真剣であり、飛んだり跳ねたりするようなジュニアヘビー級のプロレスではありえないほど、濃密な試合であることは次第に知られていった。

当初、全日本プロレスのマットに上がっていたので、私は彼らの実力に気が付かなかった。その実力者ぶりは、全日のジュニア級のエースであった渕との試合では、互いに地味すぎて、素人には分からなかったのだ。

しかし、新日からダイナマイト・キッドとデイビー・ボーイ・スミスが移籍すると、マレンコ兄弟の地味な実力が本物であることが知られるようになった。キッドとディビーは、筋肉ムキむきをアピールするマッチョ・レスラーではあるが、その喧嘩慣れしたプロレスの実力は本物であることは、日本のプロレスファンには良く知られていた。

そのキッドたちに一歩も引かないストロング・スタイルでのプロレスを見せたことで、マレンコ兄弟の評価はうなぎ登りに高まった。かくいう私も、このタッグ試合で、彼らの地味ながら筋金入りの実力に気が付いた一人だ。

後年、ＵＷＦインターなどの総合格闘技志向のプロレス団体のリングに上がっても、その実力は色あせることはなかった。レスリングも出来るが、蹴り技に自信がある田村との試合で、その実力を見せつけた。

蹴り技でアメリカの筋肉マッチョレスラーをボコボコにしていた田村だが、タックルで前に出て蹴りを受け止めて、そのままレスリングに持ち込むジョー・マレンコには苦戦を余儀なくされた。

こんな受け方があるのかと、試合中も驚きを隠せない田村の表情が忘れがたい。総合格闘技にも対応できるマレンコ兄弟の実力は、アメリカにも伝わり、遂には招聘され、アメリカでもスター選手となったマレンコ兄弟。

中年になると、かつて嫌っていたギミック・プロレスも受け入れ、ウソもハッタリもありの徹底的なショーマンシップ溢れたアメリカン・プロレスにも馴染んでいたのには、正直驚いた。

なにかのインタビューで、日本で技の攻防を観客に見せる楽しみを覚えたことが、今につながっていると話していたのに、なんとなく納得した。晩年は、郷里に戻ってのプロレス道場を時折やっているそうだ。

生粋のプロレス好きの兄弟。それがマレンコ・ブラザーズであったと思います。