ヌマンタの書斎

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節税の為の養子縁組

2017-02-09 12:11:00 | 経済・金融・税制

日本の相続税は、世界でも指折りのもの凄く高い税金である。

にもかかわらず、あまりその過酷さが知られていないのは、相続税を申告する人が少ないからだ。2年前までは、亡くなった人のうち、相続税を申告して納税する人は2%程度であった。

その後、平成27年に改正があり、現在は4%程度まで申告納税する方は増えている。もっとも、この増えた人たちは、非課税の枠が下がったことによる申告であり、それほど多額の相続税を納めている訳ではない。

しかし、その一方で資産家層では、納税額が億を超えるような申告も珍しくない。その為、古くから行われていた相続税の節税策の一つが、養子縁組であった。

相続税の非課税枠である基礎控除は、基本として3000万円に民法上の相続人一人につき600万円が加算される。つまり、残された遺族が妻と子供2人ならば、3000万円+(600万円×3)で、4,800万円までが基礎控除として、相続財産の価額から控除される。当然、48百万円以下なら非課税となる。

この制度を乱用して、養子縁組を限りなく増やして相続税の節税を図ることが過去、実際にあったほどである。その為、改正されて、養子をいくら増やしても、一定の制限を設けている。

一応、書いておくと、実子がない夫婦の場合、相続税の基礎控除で認められる養子は2人まで、実子がいる場合は、養子一人のみが認められる。確認するが、相続税の非課税枠の制限であって、養子自体を否定している訳ではない。

相続人が一人増えれば、600万円の非課税枠が広がる。その程度ではあるが、累進税率で最高の55%だと仮定すると、330万円の節税になる。決して小さくはない。だから、養子の制限があれども、養子縁組をして、相続税の節税を図る資産家は少なくない。

今回、最高裁まで争ったケースは、若干主獅ェ違うのだが、いずれにせよ、節税の為に養子縁組をすることの有効性を認める判決となっている。一人っ子世帯が多い今日でも、孫などを養子にする節税は、絶える事がないだろうと予想している。

しかしながら、本音を言うと、私は相続税節税のための養子縁組には、あまり積極的ではない。守秘義務の関係で、以下の文は大幅に脚色したものとなりますが、ご容赦のほどを。

バブルが終わりかけの頃、都心でお店を営む夫婦が建て替えをすることにした。その際に某ゼネコンからの提案があり、敷地ごとゼネコンに売り、代金としてそのゼネコンが建てる複合ビルの最上階にコンドミニアムをもらい、一階のテナントを定期借家してお店を続け、それ以外に賃貸マンションを二部屋もらっている。いわゆる交換による不動産建て替えである。

やがて夫婦も高齢化してきたので、店舗は又貸しに出し、引退することにした。賃貸収入だけで十分暮らせたからだ。その後、ご主人が亡くなり、独り身になった奥様を心配して息子夫婦が同居してきたのだが、どうも様子がおかしい。

実は立替時に、相続が発生した場合の相続税を試算したところ、あまりの高額に驚いた夫婦は、息子夫婦の孫と養子縁組をして、節税を目論んだ。その孫も息子夫婦と共に老婦人と同居している。

どうも、その孫が老婦人を虐待している気配がある。いや、どうも息子夫婦も加担しているのではないかと思わせる感じさえあった。老婦人のご主人が亡くなった際、息子及び孫も相続人として財産の一部をもらっている。

そのことが、どうも家族関係をおかしくしてしまったようなのだ。不動産の権利の一部を相続した息子と孫は、老婦人に面と向かって「早く死ね!」などと罵唐オているようなのだ。つまり、死ねばその残りの相続財産が手に入る。

ご主人の相続の際、老婦人を中心とした相続プランを呈示したのだが、その時のャCントは、預貯金の過半を老婦人に残したことであった。息子と孫には不動産中心の相続であった。ハンコを押す際には、皆了解していたはずだ。

しかし、毎月コツコツ入る賃貸収入よりも、ボンと現ナマが欲しかったようなのだ、この息子と孫は。同居の目的は、お金であって、介護する気などなかった。それどころか、食事を減らしたりして虐待しているようなのだ。特に孫がヒドイらしい。

「こんなことになるなら、養子縁組なんて、しなければ良かった」と涙ぐむ老婦人を前に、やり切れぬ思いを抱いたものだ。やがて、老婦人は自らの意志で老人ホームに入った。あんな家には居たくないと、血を吐くような口調で越していった。

その後、うちの事務所は息子さんと孫から顧問契約を解除された。しかし、老婦人は最後まで私どもの事務所に申告を任せてくれた。そのため、私は老婦人の郷里に近い関東近辺の老人ホームを年数回訪れていた。

その老婦人が亡くなった後の相続業務には携わっていないが、きっと息子と孫は大いに失望し、怒り狂ったであろう。老婦人が手痛いしっぺ返しを目論んでいたことを知っていたのは、本人以外ではうちの事務所と、弁護士さんだけだから。

孫から脅迫めいた電話があったが、馬耳東風と聞き流しながら、私は複雑な想いを拭いきれなかった。金は人を変える。それは分かっていたが、これほど、あからさまな変貌は、そうそうあるものではない。その原因が相続税の節税のための養子縁組であった可能性は高い。

多少、相続税が高くとも、夫婦中心の相続にして、息子へは現金だけにしておけば良かったのかもしれない。そうすれば、あんな晩年を迎えずに済んだのかもしれない。

今更悔いても仕方ないことではあるが、それでも忘れることは出来ない。

一応、書いておくと、このような問題が生じる最大の原因は、民法が定める法定相続分があることです。なにもしなくても、自分には親の財産を貰える権利がある。そう思い込む子供たちが、年老いた親を苦しめている。

本来は、長子相続制から、平等な相続を目指したものであったのですが、どうやら制度疲労を起こしているようだと私は考えています。養子縁組を否定する気はないのですが、節税のための養子縁組は、よくよく考えたほうが、良いだろうと思いますよ。

コメント (1)
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