ヌマンタの書斎

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金正男の暗殺死に思うこと

2017-02-23 14:13:00 | 社会・政治・一般

マレーシアの空港で起きた金正男の暗殺事件であるが、実のところ権力者による兄殺しは、そう珍しいものではない。

有名なところでは、唐の太宗皇帝(李世民)がいる。父(李淵、後の高祖)を助けて唐王朝を打ち立て、皇太子たる兄の李建成を倒して帝位についた。事実上の唐の建国者であり、貞観の治といわれる政治を行い、歴史に名を残している。

小中華といってよい北の金正恩が、治世者として優秀かどうかはともかく、独裁者としての資質は、兄よりも上であったと思う。元々、二代目の金正日は、容姿が自分に似た正男を後継者にと、当初考えていたようだ。

しかし、この三代目候補はあまりにお人よしであった。猜疑心が強く、独裁者として孤高の統治者であることを貫き通した正日と異なり、正男には御坊ちゃん育ちの人の良さが表に出過ぎた。

異母弟である正恩は、その点父の猜疑心の強さ、独善ぶり、警戒心の強さを見事に受け継いでいた。だからこそ、正日は次男である正恩を新たに後継者として選んだ。率直に言って、その選択は正しいと思う。

父親(正日)が生存中は、海外に居ても金に困ることなく、呑気に自由を満喫できた。しかし、弟が三代目になると、送金は止まり、生活が苦しくなったが、さりとて冷酷な弟の待つ祖国に帰る気はない。

弟からすれば、兄を担がれて亡命政権なんぞ作られたら迷惑で仕方ない。独裁者としての当然の選択が兄の暗殺である。こんなことは、人類の歴史の普遍的なことに過ぎず、むしろ兄が暢気すぎる。

暗殺された兄は気の毒だが、正直あまり同情する気になれない。海外生活が長く、個人の人権が尊重される西側社会に馴染み過ぎたと思う。彼の祖国は中世以来の変らぬ価値観を持った金王朝であることを忘れていたとしか言いようがない。

この暗殺事件で、北朝鮮の将来を危惧するかのような報道を目にするが、私はむしろ逆で、これで金王朝は当分続くと考えている。少なくても、独裁者の行動としては正しい。

もし北京政府が、兄である金正男を傀儡に亡命政権を支援でもしたら、それこそ金王朝の危機となる。その危険の芽を排除した訳だ。三代目の正恩は、猜疑心の強い父親の性格を見事に引き継いでいる。

国際社会から、どう思われようと、自分の権力を維持するために何でもする独裁者。それが現行の北朝鮮であり、いくら口先で交渉しようと無駄であることが立証されたとも云える。

冷酷な国際政治の世界に対峙するに、必要なのは無意味な笑顔の握手ではなく、酷薄で強力な武力であることが良く分かる事件であったと思います。

コメント (3)
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