ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

シング

2017-03-22 13:05:00 | 映画

歌うと楽しくなるって、本当なんだよ。

大学2年の時の夏合宿は、南アルプスを三週間かけての大縦走であった。あの赤石山脈は、本邦きっての大山脈であり、アップダウンの厳しい山並みが壮絶なほど凄まじい。

なにせ、毎日森林樹林帯(標高2000メートル程度)から山頂(標高3千メートル)まで上り下りを繰り返すのだから、体力を激しく消耗する。しかし、岩稜帯の縦走路からの展望は素晴らしい。

しかし、それも晴天ならではだ。雨が横殴りに吹き、身体を飛ばされそうになるほど、激しい強風が吹き荒れると、岩稜帯は死の世界へ変貌する。隠れる場所がないので、ザイルで身体を結び合い、必死で下って安全な樹林帯に逃げ込む。

全員で強風に負けないようにテントを強固に設営し、ようやく安全を確保できる。が、しかし、まだ山の初心者が多い一年生は、気持ちが落ち込んでいるのだろう。下を向いて両手で身体を抱きしめるかのように怯えている。

それを見たリーダーは、危機感を覚えたのだろう。急遽、全員にザックの中から歌集を出すように命じた。濡れないようにタッパーに仕舞いこんであった手作りの歌集である。

山の唄が中心だが、フォークや歌謡曲も入れたガリ版刷の歌集である。そして、皆で山の唄を歌うことにした。疲労から嫌がっていた一年生もいたが、そこは鬼の体育会である。反抗なんて許さない。

一年生を囲い込むように座り、間、間に上級生が入り込み、無理やり歌わせる。本気で嫌がる一年生もいたが、バテているので、反抗にも力がなく、逆らう気持ちもスタミナ切れのようだ。

リーダーの意図は分かっている。私ら二年生は、率先して大声で歌う。とにかく空元気でもいいから歌う。上手い、下手は関係ない。最初は小さな声で歌っていた一年生も、次第に声が大きくなってくる。

時々、替え歌を混ぜて笑いをとったり、歌の上手い奴がさりげなく追唱することで、気が付くと全員が歌っていた。しかも笑顔が戻っている。頃合いを見計らって、サブテントでお湯を沸かし、とっておきの御菓子をサブリーダーが運んできて、みんなで少しのブランデー入り紅茶で乾杯して、お菓子タイムである。

ほんの小一時間前には、雰囲気最悪であったテントのなかも、笑顔が溢れている。歌の力って凄いと思う。

もう山に登れなくなった私だが、あの日のことは今も鮮明に覚えている。私にとっても忘れがたい思い出の日であった。

そんな思い出が脳裏に浮かんだのが、表題の映画だ。私は字幕版で観たが、次は日本語吹き替え版で観たいと思う。どちらも、きっと楽しいだろう。春休みのお楽しみとして、良い映画だと思いますよ。

コメント (3)
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