夜道で出会ったら、絶対ビビるぞ。
東サモア諸島生まれで、引っ越した先のアメリカ育ちの兄弟プロレスラー、それがサモアンズ。デカいのはともかく、肉体は分厚く、その筋肉はなめらかなれどぶっとい。スピードもあり、スタミナもある。なによりその顔つきに迫力があった。
太平洋の南、サモア諸島の男たちは、みな逞しく、獰猛な戦士である。トンガやフィジーなどの太平洋南海の島々は美しいが、有史以前より壮絶な戦争を繰り返していたことが、今日の研究で分かっている。
その子孫たちなのだから、ある意味、強くて当然である。
この二人の兄弟、一人一人も強いのだが、タッグマッチでは無類の強さを発揮した。兄弟だからチームワークがイイのは当然だが、もう一つ秘訣があった。それは、二人とも顔立ちが似ているので、試合中、どっちがどっちだが、レフリーが分からなくなることがある。
それを利用して、試合中頻繁に交代を繰り返し、反則も繰り返し、レフリーが戸惑ううちに試合に勝ってしまう。私ら観客は、「レフリー!!!、どこ見ているんだぁ~~~」と騒いだが、試合は終了してしまう。
子供の頃は、無性に悔しくて、卑怯だと思っていた。でも、長じるにつれて、そのタッチワークを笑いながら楽しめるようになった。これもまた、プロレスの楽しみ方の一つである。
ただ、これはサモアンズに限らないが、彼らサモアやトンガ出身のプロレスラーは、総じて酒癖が悪い。ジャイアント馬場も、アントニオ猪木も、プロモーターとして、この酒癖の悪さには相当辟易したらしい。
この酒癖の悪さが災いしてか、彼らはアメリカでも、一つの街に居つくことなく、各地を巡回するサーキット・プロレスラーであったようだ。とはいえ、リングを降りた彼らは、酒を飲みかわしながら楽しげに笑っていた姿が印象深い。
でも、なんとなく恐くて近寄れなかった。あの巨体で、あのパワーとスピードですから強くて当然。でも、酒には弱かったと思う。後で知ったのだが、彼らポリネシアン系の社会は、母系中心の家族で作られるらしい。
そのせいか、母親の前では借りてきたネコのように大人しいとか。そういえば、小錦も曙も、母親の前では甘えっ子だった。人間、分からないものですねぇ。