勝手な理屈だよなと吐き捨てた。
近年稀に見る大ヒットとなったのが、ふるさと納税制度であろう。ところが、あまりの人気に、都市部の市町村、特に23ある特別区では税収不足となっている。特に私が住む世田谷区は、税収不足から福祉行政に滞りが出ると、半ば脅しにかかる有り様である。
また、その状況を受けて総務省は、ふるさと納税制度の見直しに着手すると言いだしている。まったく勝手な言い分だと思う。それを安直に報道する新聞、TVもいい加減なものだ。
その一例を挙げたい。
介護保険制度は、各地方自治体が徴収する。そして、その介護サービスを受ける際には、被介護者は窓口で3割を支払い、残り7割を地方自治体が負担する仕組みである。
地価が高い東京都市部では、介護施設を作ること自体難しく、特養ホームなどは大幅に不足している。そのため、東京でも西側の山が多い地域に施設があることが多い。私の母も、奥多摩の山間にある施設のお世話になっていた。車でも片道2時間近い遠方であり、見舞いに行くのも大変であった。
でも、これは割と幸運な方だ。都内を諦め、地方の施設に老いた父母を預けねばならぬ家庭は少なくない。その受け皿が、千葉県や埼玉県、山梨県などにある施設となる。
ここで問題が生じた。都内に住む住民は、その介護保険料を東京都に納める。しかし、その介護サービスを受ける施設の所在地では、窓口で3割支払ってもらえても、残り7割はその地方自治体が負担せねばならない。
結果、千葉県や埼玉県などの東京近郊の自治体の介護保険会計は、赤字に転落した。言うまでもないが、東京都の介護保険会計は黒字である。そこで、赤字に悩む県の知事たちが集まり、東京都に一部負担を求めたことがある。
しかし、当時の東京都知事であった石原は、冷淡に「法律に従ってやっているだけ。うち(東京)が負担すべきものではないよ」と吐き捨てた。石原都知事(当時)は嘘を言ってる訳ではない。それは法令にそったことで、違法ではない。
でも、都民の払う保険料はいただくが、その介護保険の負担は、入所している所在地の自治体が負担するのが当然って、おかしくないか?
はっきり言えば、これは厚生労働省の制度設計の誤りだと思う。もっといえば、赤字に悩む健康保険会計を救い、赤字を地方自治体に押し付けようとした結果でもある。
もし、亡くなった母が、千葉県や山梨県の施設のお世話になっていたら、私は喜んで「ふるさと納税」制度を活用して、その県に寄付したと思う。都民にまともに福祉行政を提供できない都庁なんぞに、税金を払いたくない。むしろ、高齢者を実際に受け入れている地方自治体にこそ、税金を納めたい。
結果、都内の23区のような地方自治体が税収不足になろうと、それは当然であり、必然でもある。特に世田谷は裕福な自治体であり、今まで税収不足に困ることはなかった。そのくせ、区民が喜ぶような行政サービスが足りない、困った地方自治体でもあった。
今更、ふるさと納税のせいで、税収不足などと言いだしても、正直同情する気にはなれない。これまで、如何に区民を満足させていなかった現実こそ、ここで認識すべきだと思っている。
もちろん、介護保険制度を各地方自治体に押し付けた国の責任も大きい。そういった背景を無視して、ただ役所の言い分を垂れ流す大マスコミ様のいい加減さこそ腹が立つ。
ふるさと納税のせいで税収不足だと言うのなら、区の職員の手厚い福利厚生を削減して、区民のための行政をやってみろ。自分たちはこれまでヌクヌクとお手盛りの福利厚生を満喫して、一般庶民を無視してきたからこそ、区民は「ふるさと納税」で、区への納税を減らしたのだと気が付くべきだ。