どちらかといえば、ダンケルクの敗走とタイトルを変えたほうが良いように思います。
ヒットラーのポーランド侵攻に端を発した第二次世界大戦ですが、序盤で英仏連合軍は、ドイツ軍の電撃作戦の前に敗走を重ね、遂にはダンケルクの湾岸に追い詰められてしまいます。
碌な港湾施設もない海岸で、30万人を超す兵士たちを救出するのは至難の業。イギリス政府は、民間の小型船を徴用して、かろうじて救出に成功しました。
ですが、この敗走により4万台を超す軍用車両、武器、弾薬、食料、医薬品を放棄せざるを得なかった。だが、訓練しなければ使い物にならない兵士を30万確保したことで、この作戦は成功だとされています。
その一方、映画では端折られていましたが、このダンケルクからの救出が成功した影には、同時期にカレー港に追い詰められていたイギリス軍4万の犠牲があったことは、あまり知られておりません。
いわば、4万人を囮にして、30万人を助けた訳です。この冷酷にして冷徹な計算をするのが戦争です。カレーの悲劇は、軍記でも、あまり取り上げられません。
それどころか、ダンケルクの無様な敗走を勇気ある救出劇に仕立て上げ、イギリス国民の士気を高めようと目論んだのが当時のイギリス政府でした。
この手のレトリックは、欧米の得意とするところですが、余計な予備知識があったがゆえに、私は表題の映画を素直に楽しめませんでした。
では、映画としてダメかといえば、決してそんな事はなく、むしろ良作だと思います。あの迫力ある戦闘画面は、戦争の恐ろしさを見事に描いています。
私個人が一番感心したのは、海上での救出劇ではなく、フランス空軍とドイツ空軍のプロペラ戦闘機同士の格闘技戦でした。もしかしたら、今までで一番の描写かもしれません。
レーダーとミサイルに頼った現代とは異なり、人の目を飛行機の操作技術で戦っていた戦闘機戦は、実に見事でした。これだけでも、見る価値ありと思ったぐらいです。
最後に、個人差はあると思いますが、この映画は3Dよりも普通の2Dのほうが観やすいでしょう。あの激しい戦闘場面の切り替えは、3Dだと画像酔いしそうですから。