師走の街並みは、いつだって忙しない。工場からの騒音と、排気ガスを撒き散らすトラックの轟音にも気が付かぬ風で、その女は産業道路の歩道を必死でリアカーを引いていた。3ヶ月前、工場からの帰り道、酒気帯び運転の車に跳ねられて夫は死んだ。4人の子供と妻を遺して死んだ夫を跳ねた車は、そのまま壁につっこみ運転者は即死だった。
涙も枯れ果てた目に映ったのは、腹を空かせた4人の子供たちだった。「生きなければ、働かねば、誰がこの子たちを・・・」工場主の紹介もあり、工場から出る廃品の回収で、日々の生活を養うこととなった。コメツキバッタのように頭を下げ、廃品を貰いうけ、それを廃品業者へ卸す毎日。
汗と埃で自慢の黒髪は、くすんだ灰色となり、廃品よりも疲れた身体に鞭打ち、日々の暮らしを賄う毎日だった。楽しみといえば、子供達の笑顔と安タバコをくゆらすだけ。それでも夜になり子供達が寝付くと、声を押し殺して泣くのであった。
いつしか、上3人の女の子たちは家事を手伝うようになり、リアカーは軽トラックになり、少しは暮らしも上向いた。ところが石油ショックとやらで仕事は激減し、軽トラックのローンが重くのしかかる。中学を卒業した娘達が働くようになり、なんとか夜逃げは避けられたが、末っ子が登校拒否になり、悩みの種は尽きない。
学校へろくに通わなかった末の子は、仕事につくでもなしブラブラしていたが、ある日派手な赤いリボンが不似合いな娘と恋に落ち、止めるのも聞かずに家を出た。目に入れても痛くないほど可愛がった末っ子だけに、さすがに失望したが、近所に住まいを構えた娘夫婦達に孫が産まれ、女の人生にもくつろぎが出てきた。
そんなある日の朝、女は血を吐いた。救急車で運ばれ入院した。診断は癌だった。レントゲンの図面を説明され、真っ黒になった肺の写真を他人事のように眺めていた。せめて自宅で死にたいと病院を抜け出したが、またも血を吐き、連れ戻された。
病室のベッドの脇の窓から見る冬の空は、青く澄み切っていた。思えば、スモッグで薄汚れた空しか見てなかった気がする。「もう、いいわ」と力なくつぶやき目を閉じた。辛く苦しい人生であった。もう終りにしてもいい。心残りは末っ子の行く末だが、それも致し方ないことかもしれない。薄れていく意識が、子供の歌声で引き戻された。
目を開けると、幼き末っ子の姿が見える。よく見ると、幼子を抱きかかえた末っ子が立ちすくんでいる。笑っているのか、泣いているのか。かすみがちの目には、よく見えなかったが、その腕に抱かれた幼子には、在りし日の末っ子の面影が濃いのだけは良く分かった。彼女の意識を引き戻したのは、その幼子の歌うクリスマス・ソングであった。女を悩ませ失望させた末っ子の、最後の親孝行だった。
すべての子供達が無事であることを知った女は、安心しきったのか、その日の夜には息を引き取った。末期癌の苦しみなど、どこにも見当たらない穏やかな死に顔であった。
葬儀の場には、どこからともなく無数の人が集まった。自分の食事を切り詰めても、困っている人に助けの手を差し伸べた、その女を慕ってのことだろう。4人の子供達ですら見知らぬ人の弔問は、途切れることなく夜更けまで続いた。
葬儀が終り、静寂を取り戻した自宅の一室で、遺影を前に末っ子は号泣した。涙を止めることなど、出来やしなかった。親孝行したい時には親はなし、さりとても墓石に毛布はかけられず。悩んでも、悔やんでも、想いは満たされず。ただ、ただ泣くしかなかった。
涙も枯れ果てた目に映ったのは、腹を空かせた4人の子供たちだった。「生きなければ、働かねば、誰がこの子たちを・・・」工場主の紹介もあり、工場から出る廃品の回収で、日々の生活を養うこととなった。コメツキバッタのように頭を下げ、廃品を貰いうけ、それを廃品業者へ卸す毎日。
汗と埃で自慢の黒髪は、くすんだ灰色となり、廃品よりも疲れた身体に鞭打ち、日々の暮らしを賄う毎日だった。楽しみといえば、子供達の笑顔と安タバコをくゆらすだけ。それでも夜になり子供達が寝付くと、声を押し殺して泣くのであった。
いつしか、上3人の女の子たちは家事を手伝うようになり、リアカーは軽トラックになり、少しは暮らしも上向いた。ところが石油ショックとやらで仕事は激減し、軽トラックのローンが重くのしかかる。中学を卒業した娘達が働くようになり、なんとか夜逃げは避けられたが、末っ子が登校拒否になり、悩みの種は尽きない。
学校へろくに通わなかった末の子は、仕事につくでもなしブラブラしていたが、ある日派手な赤いリボンが不似合いな娘と恋に落ち、止めるのも聞かずに家を出た。目に入れても痛くないほど可愛がった末っ子だけに、さすがに失望したが、近所に住まいを構えた娘夫婦達に孫が産まれ、女の人生にもくつろぎが出てきた。
そんなある日の朝、女は血を吐いた。救急車で運ばれ入院した。診断は癌だった。レントゲンの図面を説明され、真っ黒になった肺の写真を他人事のように眺めていた。せめて自宅で死にたいと病院を抜け出したが、またも血を吐き、連れ戻された。
病室のベッドの脇の窓から見る冬の空は、青く澄み切っていた。思えば、スモッグで薄汚れた空しか見てなかった気がする。「もう、いいわ」と力なくつぶやき目を閉じた。辛く苦しい人生であった。もう終りにしてもいい。心残りは末っ子の行く末だが、それも致し方ないことかもしれない。薄れていく意識が、子供の歌声で引き戻された。
目を開けると、幼き末っ子の姿が見える。よく見ると、幼子を抱きかかえた末っ子が立ちすくんでいる。笑っているのか、泣いているのか。かすみがちの目には、よく見えなかったが、その腕に抱かれた幼子には、在りし日の末っ子の面影が濃いのだけは良く分かった。彼女の意識を引き戻したのは、その幼子の歌うクリスマス・ソングであった。女を悩ませ失望させた末っ子の、最後の親孝行だった。
すべての子供達が無事であることを知った女は、安心しきったのか、その日の夜には息を引き取った。末期癌の苦しみなど、どこにも見当たらない穏やかな死に顔であった。
葬儀の場には、どこからともなく無数の人が集まった。自分の食事を切り詰めても、困っている人に助けの手を差し伸べた、その女を慕ってのことだろう。4人の子供達ですら見知らぬ人の弔問は、途切れることなく夜更けまで続いた。
葬儀が終り、静寂を取り戻した自宅の一室で、遺影を前に末っ子は号泣した。涙を止めることなど、出来やしなかった。親孝行したい時には親はなし、さりとても墓石に毛布はかけられず。悩んでも、悔やんでも、想いは満たされず。ただ、ただ泣くしかなかった。
墓石に毛布はかけられずかあ、、。田舎に電話してみ
ます。