馬鹿と煙は高いところが好きだそうだが、何を隠そう私も大好きだ。
なかでも好きなのが、雲の海から突き出た山稜の頂上から臨める風景だ。こんな時の空は、突き抜けるように蒼く、太陽の輝きを受けて白くきらめく雲海のうねりは雄雄しい。時折雲の切れ間から覗く緑の大地が遥か下に見える。風は冷たく、その冷たさが自分が生きていることを実感させてくれる。
多くの場合、このような光景を望めるのは早朝だが、夕暮れ時も格別の味わいがある。赤い夕日が雲を赤く染め上げ、反対側では蒼く暗い星空が、次第にその暗さを増していく。太陽が遠くの山稜の下に消えた時には、星空の瞬きが背景を飾り、月の輝きがそれを圧唐キる。空気は冷たさを通り越して、そこに人が佇むことを容易には許してくれない。
樹林帯より上の山の世界は、生物の棲む世界ではない気がする。低い潅木が這い回り、岩陰にひっそりと高山植物が花を開くぐらいで、後は一面荒涼たる岩稜が広がるばかりだ。命を感じさせない世界であるがゆえに、古代より人々は山を神の住まいだと噂した。
何度となく山に登った私だが、樹林帯より上の山稜には、独特の雰囲気があることは否定しがたい。なぜだか、そこには長居してはいけない気にさせられる。だからほんの一時、山頂に歓喜の時間を過ごす事を許されているのに過ぎないのだと考えていた。だからこそ、独特の優越感に浸れる時間でもあった。
よく「下界を見下ろして」という言い方をしていた。山の上から下を見れば、当然に見下ろすことになるのは当然だ。しかし、下界という言い方には、ある種の優越感を感じていた。そこには単に重い荷物を背負って、相当な肉体的辛苦に耐えて頂上にたどり着いた者だけが持つ達成感だけではなかったと思う。なにか特別な場所に、一定の義務を果たした者だけが、その場にいることが許されるといった特殊な感情があったように思う。
ある種の選民意識とでも言ったらよいのだろうか。高い山の上に立つと、独特の雰囲気があったことだけは確かだった。標高3000メートル級の山ですらこうなのだから、ヒマラヤの8000メートル級の山々に登った時の気持ちは筆舌に尽くしがたい魅力なのだと思う。
表題の作者、夢枕獏氏は、山小屋の管理人の経験もある登山家でもあり、山を舞台にした独特の伝奇小説を数多く発表している。その彼が満を期して発表したのが表題の作品だった。チョモランマ、通称エベレストは数々の伝説を秘めた、まさに神々の山嶺だ。ヒマラヤ登山の経験のない私をも、本のなかでヒマラヤを経験させてくれた佳作だと思う。
おまけ 一回だけ山頂で恥ずかしい思いをしたことがある。九州、高千穂峰の頂上直下小屋のトイレでのことだ。和式便所でしゃがみ込み一服していると、妙に下半身が涼しい。良く見たらトイレの壁の下の窓が全開で、屈むと遠く山裾の森や道路や家々が見えた・・・覗かれたかなあ~?でも、ちょっと快感だったぞ。
なかでも好きなのが、雲の海から突き出た山稜の頂上から臨める風景だ。こんな時の空は、突き抜けるように蒼く、太陽の輝きを受けて白くきらめく雲海のうねりは雄雄しい。時折雲の切れ間から覗く緑の大地が遥か下に見える。風は冷たく、その冷たさが自分が生きていることを実感させてくれる。
多くの場合、このような光景を望めるのは早朝だが、夕暮れ時も格別の味わいがある。赤い夕日が雲を赤く染め上げ、反対側では蒼く暗い星空が、次第にその暗さを増していく。太陽が遠くの山稜の下に消えた時には、星空の瞬きが背景を飾り、月の輝きがそれを圧唐キる。空気は冷たさを通り越して、そこに人が佇むことを容易には許してくれない。
樹林帯より上の山の世界は、生物の棲む世界ではない気がする。低い潅木が這い回り、岩陰にひっそりと高山植物が花を開くぐらいで、後は一面荒涼たる岩稜が広がるばかりだ。命を感じさせない世界であるがゆえに、古代より人々は山を神の住まいだと噂した。
何度となく山に登った私だが、樹林帯より上の山稜には、独特の雰囲気があることは否定しがたい。なぜだか、そこには長居してはいけない気にさせられる。だからほんの一時、山頂に歓喜の時間を過ごす事を許されているのに過ぎないのだと考えていた。だからこそ、独特の優越感に浸れる時間でもあった。
よく「下界を見下ろして」という言い方をしていた。山の上から下を見れば、当然に見下ろすことになるのは当然だ。しかし、下界という言い方には、ある種の優越感を感じていた。そこには単に重い荷物を背負って、相当な肉体的辛苦に耐えて頂上にたどり着いた者だけが持つ達成感だけではなかったと思う。なにか特別な場所に、一定の義務を果たした者だけが、その場にいることが許されるといった特殊な感情があったように思う。
ある種の選民意識とでも言ったらよいのだろうか。高い山の上に立つと、独特の雰囲気があったことだけは確かだった。標高3000メートル級の山ですらこうなのだから、ヒマラヤの8000メートル級の山々に登った時の気持ちは筆舌に尽くしがたい魅力なのだと思う。
表題の作者、夢枕獏氏は、山小屋の管理人の経験もある登山家でもあり、山を舞台にした独特の伝奇小説を数多く発表している。その彼が満を期して発表したのが表題の作品だった。チョモランマ、通称エベレストは数々の伝説を秘めた、まさに神々の山嶺だ。ヒマラヤ登山の経験のない私をも、本のなかでヒマラヤを経験させてくれた佳作だと思う。
おまけ 一回だけ山頂で恥ずかしい思いをしたことがある。九州、高千穂峰の頂上直下小屋のトイレでのことだ。和式便所でしゃがみ込み一服していると、妙に下半身が涼しい。良く見たらトイレの壁の下の窓が全開で、屈むと遠く山裾の森や道路や家々が見えた・・・覗かれたかなあ~?でも、ちょっと快感だったぞ。