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家の柿の葉が蓬色の若葉を見せるようになった。一冬、無数の徒長した枝を寒風にさらしながらも耐えて、また今年もたくさんの柿の実を付けるのだろうか。そうなっても、誰も捥ごうとする人はいないから、老木にはあまり無理をしてほしくない。
欲しいと言った人も何人かいたが、木が大きくなり過ぎて手に負えなかったらしい。樹齢はどのくらいになるのか、子供のころからずっと、あの大きさだったような気がする。きっとそれは洟ったらし小僧の当時のままの感覚だろう。
都忘れの花も幾つか咲き出したし、遅咲きの白い花を咲かせるイカリソウも同じように可憐な花を見せるようになった。牧場の仕事が始まれば、もうすぐこの家は主無き陋屋と変わらなくなるわけで、山に上がる前の早春の一時だけ、忘れかけていた草花の存在を気付かさせてくれるいつもの春だ。
きょうは富士見の観光課に配属されたばかりの職員を案内して、入笠の伊那側を少し歩くことになっている。その前に昨日、突如機嫌の直った露天風呂を、いつでも入浴できるようにと準備した。枝打ちもやらなければならないし、相変わらず忙しい。忙しいが、ともかくも露天風呂が直ったのは大きな安堵だ。
先日、前任者のH氏が新人のS君を紹介がてら連れて訪ねてくれ、その際に交わした言葉がきょうのことに繋がった。
実は、以前から何とかしなければと思っていたことが、伊那側の道路標識の不備だった。取り敢えずのことはしてあるが、とても充分とは言えない。また、富士見町で作る伊那側の案内にも不充分だったり、不正確な点もある。
そこで、この機会に材料など費用はこちらで持つから、得意の技を使って標識を幾つか作ってくれないかとはなはだ勝手で、難しいことを提案してみた。ヒルデエラ(大阿原)やテイ沢を始め、高座岩など伊那側を訪れる人々の大半は、富士見と無縁でない人ばかりだ、などと言い添えて。
そうしたら後日、それを引き受ける条件にきょうの案内を求められたのだ。もちろん、いやだとは言えまい。
恐らく彼らは仕事に支障のないように、連休の間にでもこちらが頼んだことをするつもりでいるのだろう。釜無山登山道も、クマササがひどいことになっていると話したら若い人たちが、確か休日返上で草刈りをやったのだから。エライ!
O澤さん、いつ例の酒を一緒に呑めるのでせうか。本日はこの辺で。