秋の夜中、虫の声もしない。そろそろ、夜が明けるだろうか、明けのカラスが鳴きだした。
今年の牛たちとはあまり親しくなれなかった。ホルスであれ和牛であれ、群の中に決まって警戒心の強い牛がいて、それが群を常に混乱させた。塩場などでは、人がいる間は他の牛の陰に隠れてオドオドしているくせに、いなくなれば塩を独占しようと角を使い、横暴な態度に出る牛が何頭かいた。里での、牛の扱われ方が変わってきたのだろうか。
いまだ、連日のように牛に翻弄されている。昨日は6頭のホルスの捜索に丸一日をかけ、足を棒のようにして草原を歩き、渓を渡り、森に分け入った。腹も立つ、馬鹿らしいとも思う。しかしこういう時、不思議な闘志が湧いてきて、折れかけた気持ちを支えてくれ、強いて言えば、先の読めない岩を攀じる時の気持ちと似ているような気がした。
牧場の外に出てしまっている可能性は、第2牧区の背後に広がる区有林以外には考えられなかった。その可能性を否定できないまま、第1牧区へも行ってみた。第2牧区は全域を歩いてみた。
一昨日の大脱走の際、窮余の策として牛たちを弁天様の近くのゲートから、第4へ誘導した。その際、和牛1頭と4頭のホルス以外の牛は全頭を牧区内に入れることが出来たと思っていたが、昨日、頭数確認をすると6頭の牛の数が不足していた。なお、一昨日、第4牧区に入るのを拒否していた牛は、昨日の中に牧区内に入れることができていた。
結局、夕暮れが迫るころ、最後の念押しをしようと第4牧区へ、それまで躊躇っていた軽トラを無理して乗り入れた。すでに一度小入笠の頭には行っていたが、その時には幾つかの群れを合わせれば200頭以上の鹿が間違いなくいて、驚くやら腹が立つやらで、しかし牛の姿はその周辺にはなかった。
牛たちの驚く様子を尻目に、何回かのスリップで方向転換を余儀なくされながらも何とか小入笠直下の最後の平坦部部にまで行き着くことができた。
しかしこの段階では、すでに諦めていた。翌日は、この独り言を読んだTDS君が同情して応援に来てくれることになっていたので、彼の厚意を当てにするつもりでいた。
ところが牛はいた。しかも驚くべき急な藪の中に、か細い電牧に阻まれてそこから進めずに、動けずにいた。第4のBの放牧地には牛の好む疎林があって、すでにそこも見てあったが、牛の立ち入った形跡は全くなかった。しかし、そこからでなくては、あんな深い藪の急峻な場所へ行き着くはずもない。6頭は、耳に付けてある牧場の管理札でその番号を確認した。
思いがけない場所ではあったが探していた牛を含めて、全頭が第4牧区内にいた。
本日はこの辺で。