池の平を過ぎた所で昨日、ツタウルシが紅葉し始めているのを目にした。東部支所に用事が出来て行く途中のことだったが、この色付きかけた葉の色がさらに赤く染まる日もそう遠くはないだろう。
帰りに、ツタウルシの紅葉が一番見事な焼合わせでも速度を落とし、注意して見てみたら、ボツボツと色付きかけた葉が目に付いた。今に、ここら一帯の落葉松の林が燃えるような赤色に染まり、待ちにまった秋は一段と深まる。
第1牧区の牧草が大分乏しくなってきた。牧守の目で見た場合には、どうしても悲観的になりやすいと思い下から人を呼んでどう思うか聞いてみた。昨日の畜産課長の見立てもそれほど変わらず、残り2週間はかなり厳しいということになった。
牧草の豊かな牧区はまだあるにしても、これから移動するには人出がいるだけでなく、鹿に荒らされた牧柵を直さなければならない。特にアルミ線の電気牧柵は悲惨この上ない。二人で検討した結果、第1牧区の下にある第2牧区へ落とすしかないという結論になった。
昨日、雨の中を一巡してみたら、この牧区も2,3㍍ぐらい毎に有刺鉄線が切れている。(9月15日記)
昨夜は7時少し過ぎに寝て、そのまま朝の4時まで一度も目が覚めなかった。それでもなかなか起き出せず、1時間ばかり布団の中にいたのは疲労が取り切れていないからだろう。
昨日から第2牧区の牧柵補修を始めた。「こんな所へは牛は来ないだろう、イヤ、ここへは来るかも知れない」、そんな自問をずっとし続けながら、前日下見しておいた中のどうしても必要な場所の2箇所、数百㍍だけを何とか終えた。支柱も結束用の針金も、さらに肝心の有刺鉄線も足りないから、取り敢えず用のない牧区から持ってくるしかない。
第2牧区内にはYの字のように2方向からの流れが一か所に集まり、初の沢となって山室の谷へと流れ落ちていく。牧柵を修理しながらその流れの音を聞き、川辺に咲くノコンギクや見覚えのある名の知らぬ秋の草花を目にし、片時の快感を味わう。そしてこんな「小さな秋」の代名詞とも言えるヌメリカラマツタケの株を見付けたりもする。
牧柵の補修を嫌い・厭うわけではない。一人だけで、誰も知らない場所で黙々と仕事を続けていればこそ、こうした渓のせせらぎの音や、自然の移ろいを伝えてくれる野草などが、この労働から得られる一番有難い、貴重な対価であると思えてくる。労働の中で識る自然、その生気、キノコは見るだけにしておいた。
本日はこの辺で。