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ボケの木が白い花を咲かせた。オオウチワ、イカリソウも芽を出したし、諦めかけていたカタクリもひと株だけ蕾を抱いて土の中から顔を出した。昨日の朝は気付かなかったから、草花は勢いが付けば、こんなふうに一気に成長するものなのだろうか。
そろそろ毎年恒例にしているカタクリ峠へ行かねば。青い空、快い風、明るい光の中を幾つもの渓や尾根を繋ぐ1本の林道を、山深くまで車を頼りに上っていく。
これまた毎春同じことを呟くが、初めてここを訪れた時の目を見張るような花の群落が目に浮かぶ。林道の斜面10㍍ほどに渡って、誰かの手で植えられたのかと思うほど整然とカタクリが花を咲かせていた。草花などにはおよそ関心のなかった者が、初めて目にした印象深い光景であった。
それにしても、あの花がカタクリだとどうやって知ったのか、思い返しても分からない。もしかすれば一緒にいたT君のお蔭だったかも知れないが、その彼は世を去り、尋ねようにも今は術がない。
それから何年もして久しぶりに行ってみたら、すっかり灌木が斜面を含めて辺りを覆い尽くし、様子は一変してしまっていた。それでもカタクリは、斜面の上の灌木の間に場所を移したのか、人の目から隠れるようにして花のない葉だけが確認できた。以来毎年、ここを訪れるようになった。
峠を越すと、視界の大方を占めるのは山また山、芽吹きを控えた乾いた山腹がどこまで行っても次々と現れて続く。頭上の空を省けば、それ以外は何も見えない。しかし、そこがいいのだ。早春の日を浴びて山々がようやく暖かく見えるようになったここの風景は、カタクリと並ぶ主役になりつつある。
林道はやがて清冽な流れに沿って狭い谷を麓の集落へと下っていく。やがて現れるまだ営業前の人気のない釣り堀も懐かしい風景である。
「福島村カレー騒動」にも触れておかねばと思いつつ、もうあれは大分遠い日のことのような気がする。何事もそのように足早に去っていこうとする。
3年間赤字を続けたかつての「CAMP ONE」時代も、煮込み料理、中でもカレーには自信があったし、評判も良かった(赤字の大半の理由は原価管理がいい加減だったせい)。今回も、寸胴鍋1杯、20人分くらいを作った。口うるさい面々が大人しく食べていて、大騒動にはならずに済んでヤレヤレということに。
本日はこの辺で。