また第2牧区のこの斜面に出没する鹿の数が増えてきた。もう数える気にもならないが、牧区全体では5,60頭はいるだろう。牧場全体では、常時300頭くらい、いや、もっといるかも知れない。
「秋日和」と言いたくなるような天気だ。午前7時、太陽が向かいの東の山から昇り出し、その光りがこの谷間の放牧地にも届き始めた。気温は20度、それでも深みを増した空の青さ、枯れ草が目立つようになった牧草地に、移りゆく季節を間違いなく感じる。それに、いつしか鳥の声に代わって、虫の声がするようになった。
囲いの中に1頭だけでいる和牛の声が二度三度とした。あの牛は、まるで数学者か哲学者のように、草も食べずじっと考え込んでいる姿をよく見せてくれる。実際は何も考えてなどいないのだろうが、その仲間と交らない孤高のふうが絵になる。
先週の金曜日、久しぶりに天の川、夏の大三角を眺め、さらに望遠鏡を使って土星と木星も見た。いつもながら土星よりか、幾つかの衛星を従えた木星の方に気持ちが動いた。特にあの衛星たちが、木星を中心にして、左右に極小の光の点を放ちながら並んで見えるのがいい。
ガリレオと同じ星々を見ていると思えば歴史を感ずるし、その光が30分から45分も前に発せられたものだと思えば、その間の膨大な距離を想像し、さらに大宇宙の「無窮の遠(おち)」にも思いが行く。
土星は距離からすれば木星よりかもっと遠い惑星で、そのリングは蠱惑的ではあっても、虚空にたった1個だけの光りでは、表情の乏しい親しみの持てない人のように感じてしまう、のかも知れない。ここに来て、初めて土星を見た少女は「目玉だ」と言って驚いた。それも当たっている。
この夏も、天気はよくなかった。それでもたまに薄い雲を通して夏の大三角を眺め、目が闇夜に慣れるに従い次々と別の星が見えてくるのを、誰もいない牧場の小屋の前から幾度か眺めた。
その度に思い、味わう感慨は、一目でいいから理科室の望遠鏡で月のクレーターを眺めてみたかった小学生のころと、それほど変わってはいないだろう。
星の狩人ことかんとさんからは、白鳥座の二重星アルビレオも勧められたが、大宇宙とアルコールの酔いに負けて、次回に譲ることにした。
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本日はこの辺で。