入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’22年「秋」(12)

2022年08月17日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など
 

 まだ雨の音はしていないが、カーテンを開けるまでのことはないだろう。午前5時、あと1時間もすれば間違いなく雨になる。ひねくれてしまった子供のような天気がしつこいほど続き、ついには「秋雨前線」などという言葉まで耳にするようになった。

 どんな天気でも、きょうは昨日に続き第4牧区にある電気牧柵の立ち上げを行う。さもなければ、そろそろ囲いの中にいる牛たちが腹が減ったと言って騒ぎ出すだろう。
 14日に里へ下り、電気牧柵の点検修理には必須の電圧計用の新しい電池を入手できた。それでようやく、電圧の上がらない不良個所を見付けることができたわけだが、それに関連付随した整備も合わせるとなると、さて幾日を要したことになるのか。
 前々から、電気牧柵の維持管理の難しさを呟いてきた。安易に、としか思えないが、この牧場は電気牧柵に頼り過ぎたと思う。その上、それまでの管理の仕方もお粗末の限りで、引き継いだ当初は電圧計などもちろんなかったし、それが必要だということさえも思い付かなかった。
 そもそも基本的な知識に欠け、やっていたことは前任者ともども素人の域を出ていなかった。だから、一体どれほどの電圧の電気が流れているのかも分からないまま、断線などの目に付く不良個所を探して修理するしかなく、もちろん高圧用のゴム手袋やペンチなどなく、感電を怖れて自分で用意した。
 電気は目に見えないし、設備は年々劣化していく。そんな状態の中で、7千、8千の高電圧を流そうとするわけだから簡単なことではない。作業中に誤って触れたりすると、電流は抑えられているから感電死するようなことはないにしても、それでもその衝撃は相当のものになる。

 きょうは小入笠の頭までを往復する。作業は楽ではないが様々な記憶の残る場所であるから、急な斜面を登りつつ1本いっぽん支柱を打ち込み、アルミ線を張りながら、それらを思い出すつもりだ。
 あそこの縦線は、小入笠の頭から仏平までの長い距離のクマササの中に放置されていた支柱とアルミ線を撤去し、それらを新たな場所に張り直したものだ。あんなことはもう一度やれと言われてもできないだろうが、懐かしさは今もある。
 小入笠の頭に至る放牧地から眺める景色がまたいい。高度を上げるにつれて視界が拡がり、遠くに諏訪湖の見える辺りが特に気に入っている。山桜の老木やダケカンバの巨木もあるし、コナシの花の咲くころが光りの明度も上がり、毎年楽しみにしている時季である。
 
 不満はある。牧場に関して、あるいは電気牧柵やその他のことでも。しかしそれらをを差し引いても、まだここには充分過ぎるほどのものが残り、あったと思っている。有形無形のそれらに対する感謝の気持ちが、この身体を小入笠の頭まで運んでくれるだろう。

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