子どものサイン見逃すな 教育と福祉のはざまで悲鳴 「ルポ 子どもの貧困:小学校編 保健室からのSOS」
2010年11月18日 提供:共同通信社
夏休み直前、小学校の保健室には、1メートル四方ほどの段ボールの「家」があった。表札や郵便受け、花壇まである。
トイレットペーパーの空箱で数カ月に1度作る"秘密基地"だ。家庭にさまざまな事情がある子どもが家を作ることで癒やされ、教室に戻る。
「めっちゃええやん」
男の子が家を見つけて歓声を上げた。そして突然体当たりして壊した。
「駄目でしょ。みんなで作ったんだから」
しかった養護教諭の河野悦子が、放課後、やり切れない表情で話した。
「あの子も虐待を受けてるんです。うらやましかったんですよ」
▽大切な機会
河野は、朝食を食べられない子にパンと牛乳を渡しながら様子を聞く。
「昨日の夕ご飯は?」
「お母さんがずっと寝てて、何も食べてない」
やりとりから親の失業や病気といった生活の変化や、困窮する家庭状況が見える。保健室の朝食は子どものサインに気づく大切な機会でもある。
保健室で元気そうな様子を見て「体調が悪いと言って来たのに」と連れ戻す教員もいる。
「元気じゃないか、と見えても、保健室で好きにしている間は苦しさを感じていないだけ。虐待を受けたり空腹だったりするのに気づきにくい」
河野は子どもたちの課題に気づくと、校内の会議で情報を共有する。教員の連携が欠かせないからだ。問題を学校だけで抱え込まず、福祉や医療関係者とも連携する。
▽人材不足
「わたしは学校の家庭支援コーディネーターとして、関係機関と一緒に子どもを支えています」
この夏、教員の集会で河野が話し始めた。学校と地域がネットワークを組んで支援した家族の例を紹介した。約2年半前、「子どもの貧困」に気づき、保健室で朝食を出すきっかけになった女子児童の話だ。
保健所は母の病気の自立支援をし、社会福祉協議会はヘルパーを派遣。地域のソーシャルワーカーは通院の介助や食材配給、看護師は訪問看護を分担したという。
「学校だけでは限界がある。家族の生活支援も含めた関係機関の連携が必要です。その人材が足りない」と訴えた。
河野は「困っていても支援が届かない」と言う。制度があっても、「申請主義」のために、知らなければ活用されない。
「教育と福祉のはざまでこぼれる子が保健室でSOSを出している。気づいて援助していくことが、子どもや家族の自立支援にもつながる」
河野は保健室で接する子どもの心の悲鳴を見逃さないように気を配る。
「貧困のために大事な子ども時代を奪ってはいけない」
河野の信念だ。(文中仮名、小学校編終わり)
※国の家庭支援への評価
内閣府の2009年の調査によると、国の「家庭教育への支援」を評価する人は19%で、評価しない人が31%、取り組みを知らない人が20%を占めた。「子どもの健康への支援」を評価する人は29%、評価しない人は26%、知らない人は14%
2010年11月18日 提供:共同通信社
夏休み直前、小学校の保健室には、1メートル四方ほどの段ボールの「家」があった。表札や郵便受け、花壇まである。
トイレットペーパーの空箱で数カ月に1度作る"秘密基地"だ。家庭にさまざまな事情がある子どもが家を作ることで癒やされ、教室に戻る。
「めっちゃええやん」
男の子が家を見つけて歓声を上げた。そして突然体当たりして壊した。
「駄目でしょ。みんなで作ったんだから」
しかった養護教諭の河野悦子が、放課後、やり切れない表情で話した。
「あの子も虐待を受けてるんです。うらやましかったんですよ」
▽大切な機会
河野は、朝食を食べられない子にパンと牛乳を渡しながら様子を聞く。
「昨日の夕ご飯は?」
「お母さんがずっと寝てて、何も食べてない」
やりとりから親の失業や病気といった生活の変化や、困窮する家庭状況が見える。保健室の朝食は子どものサインに気づく大切な機会でもある。
保健室で元気そうな様子を見て「体調が悪いと言って来たのに」と連れ戻す教員もいる。
「元気じゃないか、と見えても、保健室で好きにしている間は苦しさを感じていないだけ。虐待を受けたり空腹だったりするのに気づきにくい」
河野は子どもたちの課題に気づくと、校内の会議で情報を共有する。教員の連携が欠かせないからだ。問題を学校だけで抱え込まず、福祉や医療関係者とも連携する。
▽人材不足
「わたしは学校の家庭支援コーディネーターとして、関係機関と一緒に子どもを支えています」
この夏、教員の集会で河野が話し始めた。学校と地域がネットワークを組んで支援した家族の例を紹介した。約2年半前、「子どもの貧困」に気づき、保健室で朝食を出すきっかけになった女子児童の話だ。
保健所は母の病気の自立支援をし、社会福祉協議会はヘルパーを派遣。地域のソーシャルワーカーは通院の介助や食材配給、看護師は訪問看護を分担したという。
「学校だけでは限界がある。家族の生活支援も含めた関係機関の連携が必要です。その人材が足りない」と訴えた。
河野は「困っていても支援が届かない」と言う。制度があっても、「申請主義」のために、知らなければ活用されない。
「教育と福祉のはざまでこぼれる子が保健室でSOSを出している。気づいて援助していくことが、子どもや家族の自立支援にもつながる」
河野は保健室で接する子どもの心の悲鳴を見逃さないように気を配る。
「貧困のために大事な子ども時代を奪ってはいけない」
河野の信念だ。(文中仮名、小学校編終わり)
※国の家庭支援への評価
内閣府の2009年の調査によると、国の「家庭教育への支援」を評価する人は19%で、評価しない人が31%、取り組みを知らない人が20%を占めた。「子どもの健康への支援」を評価する人は29%、評価しない人は26%、知らない人は14%