女性の「美しくも激しい変化」に魅せられて―小西郁生・日本産科婦人科学会理事長に聞く
――女性医師が活躍するための環境整備についてはどうお考えですか。
日本の場合は「家事・育児は女性が担当する」という独特の文化があり、就労を妨げてきました。海外でも大変さはあるでしょうが、比較的問題なく働いているように見える。この点、日本は諸外国とは質的な違いがあり、なかなか難しいと感じています。しかし、良い兆候としては、以前に比べて若い男性医師が早く家に帰るようになった。家庭を大事にする男性が増えてきたことで、女性の負担が少し軽くなるのではと思います。
キャリア面に関しては、道は開かれていると思います。例えば九州大学産婦人科の新教授は女性です。京都大学の腎臓内科学の教授も女性になりました。これからは珍しいことではなくなっていくでしょうね。
――話題を変えまして、小西先生のご専門は卵巣癌ですが、産婦人科領域を選んだ理由を教えていただけますか。
研究生活に入る前は、糖尿病合併妊娠に命をかけようと考えていた時期もありました。元々、顕微鏡を見るのが好きでご縁もあり、形態学研究室に入り、与えられた研究テーマは子宮筋腫でした。その後、卵巣癌に移ってきています。なかなか治らない卵巣癌を何とかしたいという気持ちもありました。
産婦人科医になろうと決めたきっかけは、女性の美しさに魅入られたからです(笑)。医師になって25年目くらいに、ふと目から鱗が落ちる瞬間がありました。産婦人科(女性医学)は、女性を生まれてから死ぬまで面倒を見るという学問体系です。男性を対象とするそういう学問はありません。女性にはその時どきの美しさがあり、かつ激しく変化していく。なぜ自分が産婦人科を選んだのか。圧倒的な魅力がそこにあったからだ、と腑に落ちたのです。
――確かに男性には女性ほどの激しい変化は起こらないですね。
女性の身体は「美しくも激しい変化」の連続です。子宮内膜を顕微鏡で見ると、エストロゲン作用下では癌よりも激しく増殖し、排卵後も日替わりで美しく変化していきます。卵巣、子宮内膜や胎盤では常に血管新生が起こっている。こんなこと、男性の身体にはありません。
このような激しい変化は巧妙に調整されていますが、あまりにも激しい変化なので、色々な異常が起こりやすい。特に妊娠したときはリスクが高くなります。歴史的には、つい最近まで、妊娠したら女性は死ぬこともあるのが当たり前の時代だった。美しい女性を守る、人類が子孫を残すという希望、それを体現しているのが産婦人科だと言ってもいいでしょう。
今後の課題として、年に数十人出る母体死亡をさらに減らしたい。また、胎児についてはほとんど分からない状態。遺伝子情報などの活用で新たな道が開ける可能性があります。
――先生のご専門についてはいかがでしょうか。
婦人科癌は、まさしく遺伝子の時代が始まろうとしています。ここ20年くらいはエビデンスに基づいた標準的治療の確立に力を注いできた。今、次の時代の夜明け前にいると思います。遺伝子情報が包括的に分かるようになれば、癌の個性に応じた治療が可能になるでしょう。スタンダードではない症例にも対応できるようになる。
2012年に発表された肺癌の融合遺伝子 EML4-ALKの登場が良い例です。「この遺伝子があるならこの薬が効く」と言えるようになった。一般的な治験を経ずに治療を始めることができる。癌へのアプローチ法が大きく変わろうとしています。
――女性医師が活躍するための環境整備についてはどうお考えですか。
日本の場合は「家事・育児は女性が担当する」という独特の文化があり、就労を妨げてきました。海外でも大変さはあるでしょうが、比較的問題なく働いているように見える。この点、日本は諸外国とは質的な違いがあり、なかなか難しいと感じています。しかし、良い兆候としては、以前に比べて若い男性医師が早く家に帰るようになった。家庭を大事にする男性が増えてきたことで、女性の負担が少し軽くなるのではと思います。
キャリア面に関しては、道は開かれていると思います。例えば九州大学産婦人科の新教授は女性です。京都大学の腎臓内科学の教授も女性になりました。これからは珍しいことではなくなっていくでしょうね。
――話題を変えまして、小西先生のご専門は卵巣癌ですが、産婦人科領域を選んだ理由を教えていただけますか。
研究生活に入る前は、糖尿病合併妊娠に命をかけようと考えていた時期もありました。元々、顕微鏡を見るのが好きでご縁もあり、形態学研究室に入り、与えられた研究テーマは子宮筋腫でした。その後、卵巣癌に移ってきています。なかなか治らない卵巣癌を何とかしたいという気持ちもありました。
産婦人科医になろうと決めたきっかけは、女性の美しさに魅入られたからです(笑)。医師になって25年目くらいに、ふと目から鱗が落ちる瞬間がありました。産婦人科(女性医学)は、女性を生まれてから死ぬまで面倒を見るという学問体系です。男性を対象とするそういう学問はありません。女性にはその時どきの美しさがあり、かつ激しく変化していく。なぜ自分が産婦人科を選んだのか。圧倒的な魅力がそこにあったからだ、と腑に落ちたのです。
――確かに男性には女性ほどの激しい変化は起こらないですね。
女性の身体は「美しくも激しい変化」の連続です。子宮内膜を顕微鏡で見ると、エストロゲン作用下では癌よりも激しく増殖し、排卵後も日替わりで美しく変化していきます。卵巣、子宮内膜や胎盤では常に血管新生が起こっている。こんなこと、男性の身体にはありません。
このような激しい変化は巧妙に調整されていますが、あまりにも激しい変化なので、色々な異常が起こりやすい。特に妊娠したときはリスクが高くなります。歴史的には、つい最近まで、妊娠したら女性は死ぬこともあるのが当たり前の時代だった。美しい女性を守る、人類が子孫を残すという希望、それを体現しているのが産婦人科だと言ってもいいでしょう。
今後の課題として、年に数十人出る母体死亡をさらに減らしたい。また、胎児についてはほとんど分からない状態。遺伝子情報などの活用で新たな道が開ける可能性があります。
――先生のご専門についてはいかがでしょうか。
婦人科癌は、まさしく遺伝子の時代が始まろうとしています。ここ20年くらいはエビデンスに基づいた標準的治療の確立に力を注いできた。今、次の時代の夜明け前にいると思います。遺伝子情報が包括的に分かるようになれば、癌の個性に応じた治療が可能になるでしょう。スタンダードではない症例にも対応できるようになる。
2012年に発表された肺癌の融合遺伝子 EML4-ALKの登場が良い例です。「この遺伝子があるならこの薬が効く」と言えるようになった。一般的な治験を経ずに治療を始めることができる。癌へのアプローチ法が大きく変わろうとしています。