訪問介護サービス困難に 高齢ヘルパー大量引退で 「介護ヘルパー存続の危機」
川崎市に住む79歳のヘルパー、正子(まさこ)さん(仮名)の仕事は分刻みだ。朝8時半から30分間、90代の女性をデイサービスに送り出すため訪問。移動して9時半から45分間は男性宅で掃除や片付け。続いて10時半には別の男性宅で掃除、11時半からは入浴介助のため次の利用者宅へという具合だ。この日は午後4時45分まで計6軒を訪問した。
正子さんがヘルパーを始めたのは00年に介護保険が始まった数年後。当時は経済的な理由だったが「やっていて楽しい」と感じ、続けてきた。
来年で80歳。体力がいる仕事をいつまで続けられるか分からない。「区切りをつけたい」と今年でやめるつもりでいた。しかし勤務先から強く慰留されている。
健康面の不安を抱えながら働くヘルパーも少なくない。東京都三鷹市の66歳のヘルパー弘子(ひろこ)さん(仮名)は昨年、介助中に腰椎を骨折した。大柄な男性を抱えてベッドに移動させ、体を戻した時に音がして激痛が走り、動けなくなった。半年以上の療養を強いられたが、最近復帰。「働き続けたいが、力仕事はまだ怖い」と話す。
介護労働安定センターの21年度の調査によると、ヘルパーのうち60歳以上は全体の37・6%で、平均年齢は54・4歳。30代以下は13・7%で、ヘルパーを選ぶ若手は極端に少ない。施設に比べ待遇が低いことに加え、訪問先では1人で判断し、対応しなければならないなど経験が必要とされるからだ。ハラスメントを受ける心配もある。
人手不足も深刻で、厚生労働省が発表した20年度のヘルパーの有効求人倍率は14・92倍にも上っている。東京商工リサーチの調査によると、人を確保できず事業休止や倒産に追い込まれる事業者も相次ぐ。
待遇改善を求めて国賠訴訟を起こした原告のヘルパーの一人、藤原(ふじわら)るかさん(67)は「生活をまるごと支える専門的な知識が求められるのに、誰でもできる仕事とされ、収入が低く抑えられている」と人が集まらない原因を挙げる。
「60歳以上のヘルパーが仕事を続けられるのは現実的にはあと5年、10年」と指摘するのは淑徳大の結城康博(ゆうき・やすひろ)教授だ。「若手がいない状態で引退したら、多くの人が介護を受けられなくなるのは確実」
結城教授は「介護保険が始まって23年、ヘルパーの待遇を良くするという対策を全くとってこなかった結果だ。他の業種に人材が流れないよう、時給を大きく上げる、公務員化するなど抜本的な対策を取らなければ保険あって介護なしが本当に現実になる」と警告する。
※ホームヘルパー
訪問介護員。在宅の高齢者や障害者を訪問して身体介護や家事支援などをする。食事や入浴、排せつ、着替え、寝返りの介助など基本的な生活を継続できるようにするほか、掃除や洗濯、買い物や調理などを援助したり、代行したりする。全国に約51万人。厚生労働省は2040年度に必要なヘルパーを約280万人としている。
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