撮影装置の光軸ズレによる問題と対策

2018-09-20 09:39:23 | 雪の結晶撮影

  雪の結晶撮影カテゴリーの記事に興味を持ってブログを見てくれている方なら「最近の話題は背景画像に関する記事が多いなあ」 そう感じていることでしょう。 今日のタイトル「撮影装置の光軸ズレによる問題と対策」も実は背景画像の写真写りと大きく関わっているのです。 

 雪の結晶撮影装置の中核をなすのはOLYMPUS OM-Dに60mmマクロレンズをつけたカメラだが、 「カメラ本体のレンズの前に拡大レンズを組み込み撮影倍率を稼ぐ」撮影システムとなっています、 以前にも書きましたが、それはモスクワに暮らしながら見事な雪の結晶の写真をものにするAlexey氏のWebページのサイトで紹介されているシステム構成の真似をしたものです。


 その様なレンズを追加して新たな光学系を作る場合、 それぞれのレンズの光軸を精密に合わせなければ、 見かけの倍率Upが出来たとしても、 何かしら問題が出るものです。 僕の撮影装置で発生している問題は視野合わせやフォーカス合わせの際にモニター画面で見えていた雪の結晶と背景画像の状態がシャッターボタンを押して撮影した時とで画像に大きな差異が生じる事でした。

 二組のサンプルに対して、開放絞りとf6.3での画像がどの様に異なる物になるのか? 具体的な画像を見ていただけば一目瞭然でしょう。

サンプル1: f2.8 

サンプル1: f6.3 

サンプル2: f2.8 

サンプル2: f6.3    

この不具合を解消するために僕が採用した方法は、 シャッターを切る前にファンクションボタンを押して、 「絞り優先モードで設定した絞り状態で得られる画像をモニター画面に出して確認する」ことでした

 そして得られる画像が好ましい状態になる様に、 背面照射光源ユニットの位置、 発光強度の調整、 ユニット上部に乗せた背景画像の位置の調整等を行うのですが、 これは寒い屋外での撮影作業中には時間の掛かる面倒な作業でした。

 この不具合(ピント合わせ操作中のモニター画像と最終画像の差)の発生原因は組み合わせたレンズの光軸ズレに起因するであろう事は以前から薄々と感じていました。 なにしろ 現役時代の職場は光学的なガラスレンズでは無いけれど、 5群の磁界型のレンズを積み重ねた電子顕微鏡を製造・販売して居る会社でした。  大きな鉄の固まりを機械加工して作る電子線に対するレンズでは加工精度や組立て精度、 はては磁性材料の均質性等、 様々な要因で歪みを持ったレンズ作用や軸ズレが発生し、 種々の工夫をしないと原子配列が観察出来るような高性能な電子顕微鏡は完成しないのです。  そんな職場がに居た僕には 「レンズを組み合わせた場合に生ずる軸ズレなんてのは世の中の当たり前」そんな感覚は身に着いてましたから。

 とにかく僕が真似て手作りしたレンズシステム。 カメラ本体のレンズと追加レンズを一体的に接合する方法を採用せずに、 追加レンズは板金加工や木工部品で筐体に固定し、本体レンズを後で脱着させる。 そんなヤクザな方法での組み合わせですから「光軸は少しズレている」と判りつつでっち上げた撮影装置なのでした。 

 その光軸の不一致が、不具合とどの様に結びつくのか理解するために図を描いてみました。 それがTop写真です。

 追加レンズを含んだカメラは撮影装置の中に固定されています。 撮影対象の雪の結晶はレンズ下部に置かれた試料ステージ上に乗せられていて、 ステージはX/Y・2次元平面上を動かせます。 この操作でカメラの撮像素子の中央部分に雪の結晶イメージは投影され、 画面の中央部に雪の結晶が置かれた画像が撮影出来るのです。

 結晶の背後を飾る背景画ですが、 それは背面照射光源ユニット上部に置かれ、 背面照射光源ユニットと共にX/Y2次元平面上を移動します。 それに依って適当な背景画像の中に在る雪の結晶写真が撮れるのです。


 さて光軸ズレのある状態でのカメラ本体撮像素子の中央部に出来たイメージですが、 そのイメージの中心部から逆に実物世界に投影される光線の様子をイメージして見ましょう。

 光線はレンズの下に置かれた実物の雪の中心部を通過します。 更には背景画像のどこかを通過します。 その延長線上に発光素子は有るでしょうか? 有りませんね、若干ズレた場所を通過しています。 すると何が生ずるか? LEDが発する光の中心部から外れた箇所に位置にぶつかります。 そこもLEDが発する光の影響を受けてなんらかの明るさを保っては居ますが、 LEDが発するメインの光束の強さと比べたら *1)、 極めて暗い光の強度です。  結果、 画面の大半が暗いイメージが撮影される原因となってしまう事も有るのです。


 こんな軸ズレがある状態での概念図を描いて見て判った事があります。

カメラの視野内を一定の明るさレベルとするためには背景光源の発光中心部を撮像素子面の中心部と合致させる必要があります。  手順としては、まず最初に、 試料ステージ上に置いた雪の結晶にフォーカスさせます。 次は、 撮影時に使用する絞り値に設定してから、 背面照射光源のLEDの位置を画面全体に明るさが出る位置を見つけて、セットしないといけません。

 次にに背景画像のどの部分を使用するか? 絞り込んだ状態が観察出来る様にカメラ本体を操作し、 モニター上の画像を見ながら背景照射光源ユニットの上部に置いた背景画を移動させつつ、 好みの状態を作り出して行く必要があります。 つまり、 光源のLEDの位置設定と背景画像位置設定は相互に影響すること無く、 独立して調整出来る構造にしておくべきなのです。

 ココらへんの知見を元にして、 今日からは何度目かの改造作業に取り組み始めました。 

*1) LED の光放射強曲線 :

  カメラの絞りを絞り込んで行くと被写界深度が深くなるために、 雪の結晶の背後に置かれた発光LEDチップの形を徐々に反映した円板状のパターンが出ます。
 軸ズレがひどい場合には部分的に真っ暗な背景画像になる場合があります。

 その為に上部に乗せた背景画像を均一な明度の画像とするためには背景照射光源の位置設定に注意が必要となります。

 だったら、 「小さな点光源でなくて、面光源を採用したら・・・」そんなアイデアを思いついた貴方、 おっしゃる通りです。

 しかし、 結晶内部の微細構造を際立たせる画像を得るために点光源が威力を発する事を忘れてはいけないのです。
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