なんと穏やかな大気であることよ!我が屋敷を取り囲む甘い果実や覆いかかる栗は、南国の気候の良い証明であるぞ。
ワイン街道に別荘を構えたバイエルン国王ルートヴィッヒ一世の言葉である。プファルツVDP100周年の冊子の頁を捲る。
表紙裏では、現在の代表レープホルツ氏が、巻頭のご挨拶にて、かつてのように王侯貴族のワインリストのみならず高級レストランにもトップワインとして存在したプファルツのワインが、ここしばらくで再び世界的に注目を引いていることを挙げている。
その歴史的土壌を基本にした新たなクラス別けへとブュルックリン・ヴォルフ、A・クリストマン、ケーラー・ルップレヒト、ゲオルク・モスバッハーの四つの醸造所が指導的な役割を果たしたのは、1971年発効のドイツワイン法で、品種やマイクロ気象、土壌を総合する個別地所の性質とその価値を失った事への反動としている。
要するに、本来の意味を為さなくなったシュペートレーゼなどへの糖比重を基本としたドイツワインの法的格付けが、先日記したようなとんでもないアイスヴァインやそれどころか不凍液騒動を引き起こしたと遠因の一つであると言うことであろう。戦後の復興から高度成長期へと大量消費時代に、嘗ての農家がアイスヴァインなどを巧く貿易商を通じて高価に市場に売りつけたと言う時代背景も忘れられないが、現実にそれが甘いドイツワインとして世界での評価を落とす罠になったのは周知の通りである。
1998年のソムリエコンテスト優勝者で2003年にはマスターオブワインに輝いたマルクス・デル・モネゴは、プフェルツァー・ヴァインの多種多様性と同時に、そのグランクリュワインを称えて、その完璧に性格付けされた香りと深みは完熟した葡萄と切り詰められた収穫により齎されてて、世界的に見て憚るべきものではないと断言する。
そうした、地元における革新と伝統こそが、昨年ステファン・クリストマンをVDP会長へと押しやったとインタヴューでご本人自身が語り、ここ数年のプフェルツァー・ヴァインの質の向上への仕事振りを述懐する。
それは1990年代から始まった世代交代と伝統的な個人経営の家督相続が構造的に幸いしたとして、そのお互いの協調が他地域よりも緊密であったことを挙げる。その結果、過去五年間における文字通りの輸出の驀進に、「プファルツの辛口リースリングは、北方のエレガンス、繊細、ミネラル質と南方のボディーと複雑性を兼ね備えた」とされて、米国から始まって北欧、スペインそしてパリのソムリエにも渇望されるようになったと言う。
2010年の独VDPの記念年に向けて、現在行なわれている摘み取り前後と瓶詰め前後の協会による巡回を、外部スタッフによるコーチングシステムへと発展させて行きたいとしている。そのために地元VDPはモデル地域になると考えている。その内容は、ここでも既に論評を加えた。
また興味深いのは、ワイン初心者に何を薦めるかとの問いに、グーツリースリングと呼ばれる一流醸造所の基本ブランドワイン ― つまり法的には格落しのQBAであるが ― と答えて、「一本6ユーロから9ユーロのこれが、偉大なワインへの第一印象となり、願わくば最高級ワインの偉大な味の体験への関心へと繋がれば良い」と語る。
クリストマン会長が「ワイン地所こそが、プファルツのほんものの文化遺産である」とする土壌についても、二ページを割いて説明している。個別には、いつも紹介していること延長にあるのに他ならないので、そこに挙がっている二人の研究者の学術的報告の主旨のみを記す。
一人は、エルンスト・ディーター・シュピース博士で、プファルツ113箇所の土壌を調べ98種の異なる土壌を分類プロファイ化している。そしてもう一人は、ウルリッヒ・フィッシャー教授で、土壌とワインの味の関連を研究している。その結果は、感応テストにより次のように証明された:
ペッヒシュタイン(玄武岩をもった泥地) ― マンゴやブラジルのマラキューヤと桃やアプリコットの果実風味
キーセルベルク(雑食砂岩の骨子) ― ミネラル質で酸が強い
そしてこれら各々と同質な二百キロ離れた土壌においても同様のワインが出来上がることを証明しているようである。
更に概要としての土壌の性格が別途記述されている:
雑食砂岩 ― ミネラル質で緑(草、藁、ダイオウ属スカンポ味)香りと尖った酸
玄武岩 ― 蜂蜜、キャラメル、桃、丸い酸
ロートリーゲンデ層(ペルム前半) ― ハニーメロンとハーブニュアンス
各々、カスターニエンブッシュ、ウンゲホイヤー、イーディックの特徴と重なり、これらの土壌の性格が毎年の気候によって、最終商品の性質に転化する。最後の土壌においては、例えば2004年では加えて花が咲き乱れスモーキーになり、2005年ではスカンポや緑の豆の味が加わるとしている。要するにこれが自然であるとしていて、キャリフォルニアのシャードネーが毎年同じ味である不思議さが喚起される。スローフードとかバイオ食品に興味がなくとも、自然の素材で作られた食品がいつなんどきもスタンダードな同じ味わいを維持する方が全くおかしいという事だけでも言及して筆をおきたい。
参照:
VDP 100 Jahre Spitzenwein in der Pfalz - Highlights 2008
土壌の地質学的考察 [ アウトドーア・環境 ] / 2006-05-09
VDPプファルツへの期待 [ ワイン ] / 2008-01-07
理想主義の市場選抜 [ ワイン ] / 2006-11-23
減反政策と希少価値 [ ワイン ] / 2006-05-18
平均化を避ける意識 [ ワイン ] / 2006-05-08
化け物葡萄の工業発酵 [ ワイン ] / 2005-12-23
ワイン街道に別荘を構えたバイエルン国王ルートヴィッヒ一世の言葉である。プファルツVDP100周年の冊子の頁を捲る。
表紙裏では、現在の代表レープホルツ氏が、巻頭のご挨拶にて、かつてのように王侯貴族のワインリストのみならず高級レストランにもトップワインとして存在したプファルツのワインが、ここしばらくで再び世界的に注目を引いていることを挙げている。
その歴史的土壌を基本にした新たなクラス別けへとブュルックリン・ヴォルフ、A・クリストマン、ケーラー・ルップレヒト、ゲオルク・モスバッハーの四つの醸造所が指導的な役割を果たしたのは、1971年発効のドイツワイン法で、品種やマイクロ気象、土壌を総合する個別地所の性質とその価値を失った事への反動としている。
要するに、本来の意味を為さなくなったシュペートレーゼなどへの糖比重を基本としたドイツワインの法的格付けが、先日記したようなとんでもないアイスヴァインやそれどころか不凍液騒動を引き起こしたと遠因の一つであると言うことであろう。戦後の復興から高度成長期へと大量消費時代に、嘗ての農家がアイスヴァインなどを巧く貿易商を通じて高価に市場に売りつけたと言う時代背景も忘れられないが、現実にそれが甘いドイツワインとして世界での評価を落とす罠になったのは周知の通りである。
1998年のソムリエコンテスト優勝者で2003年にはマスターオブワインに輝いたマルクス・デル・モネゴは、プフェルツァー・ヴァインの多種多様性と同時に、そのグランクリュワインを称えて、その完璧に性格付けされた香りと深みは完熟した葡萄と切り詰められた収穫により齎されてて、世界的に見て憚るべきものではないと断言する。
そうした、地元における革新と伝統こそが、昨年ステファン・クリストマンをVDP会長へと押しやったとインタヴューでご本人自身が語り、ここ数年のプフェルツァー・ヴァインの質の向上への仕事振りを述懐する。
それは1990年代から始まった世代交代と伝統的な個人経営の家督相続が構造的に幸いしたとして、そのお互いの協調が他地域よりも緊密であったことを挙げる。その結果、過去五年間における文字通りの輸出の驀進に、「プファルツの辛口リースリングは、北方のエレガンス、繊細、ミネラル質と南方のボディーと複雑性を兼ね備えた」とされて、米国から始まって北欧、スペインそしてパリのソムリエにも渇望されるようになったと言う。
2010年の独VDPの記念年に向けて、現在行なわれている摘み取り前後と瓶詰め前後の協会による巡回を、外部スタッフによるコーチングシステムへと発展させて行きたいとしている。そのために地元VDPはモデル地域になると考えている。その内容は、ここでも既に論評を加えた。
また興味深いのは、ワイン初心者に何を薦めるかとの問いに、グーツリースリングと呼ばれる一流醸造所の基本ブランドワイン ― つまり法的には格落しのQBAであるが ― と答えて、「一本6ユーロから9ユーロのこれが、偉大なワインへの第一印象となり、願わくば最高級ワインの偉大な味の体験への関心へと繋がれば良い」と語る。
クリストマン会長が「ワイン地所こそが、プファルツのほんものの文化遺産である」とする土壌についても、二ページを割いて説明している。個別には、いつも紹介していること延長にあるのに他ならないので、そこに挙がっている二人の研究者の学術的報告の主旨のみを記す。
一人は、エルンスト・ディーター・シュピース博士で、プファルツ113箇所の土壌を調べ98種の異なる土壌を分類プロファイ化している。そしてもう一人は、ウルリッヒ・フィッシャー教授で、土壌とワインの味の関連を研究している。その結果は、感応テストにより次のように証明された:
ペッヒシュタイン(玄武岩をもった泥地) ― マンゴやブラジルのマラキューヤと桃やアプリコットの果実風味
キーセルベルク(雑食砂岩の骨子) ― ミネラル質で酸が強い
そしてこれら各々と同質な二百キロ離れた土壌においても同様のワインが出来上がることを証明しているようである。
更に概要としての土壌の性格が別途記述されている:
雑食砂岩 ― ミネラル質で緑(草、藁、ダイオウ属スカンポ味)香りと尖った酸
玄武岩 ― 蜂蜜、キャラメル、桃、丸い酸
ロートリーゲンデ層(ペルム前半) ― ハニーメロンとハーブニュアンス
各々、カスターニエンブッシュ、ウンゲホイヤー、イーディックの特徴と重なり、これらの土壌の性格が毎年の気候によって、最終商品の性質に転化する。最後の土壌においては、例えば2004年では加えて花が咲き乱れスモーキーになり、2005年ではスカンポや緑の豆の味が加わるとしている。要するにこれが自然であるとしていて、キャリフォルニアのシャードネーが毎年同じ味である不思議さが喚起される。スローフードとかバイオ食品に興味がなくとも、自然の素材で作られた食品がいつなんどきもスタンダードな同じ味わいを維持する方が全くおかしいという事だけでも言及して筆をおきたい。
参照:
VDP 100 Jahre Spitzenwein in der Pfalz - Highlights 2008
土壌の地質学的考察 [ アウトドーア・環境 ] / 2006-05-09
VDPプファルツへの期待 [ ワイン ] / 2008-01-07
理想主義の市場選抜 [ ワイン ] / 2006-11-23
減反政策と希少価値 [ ワイン ] / 2006-05-18
平均化を避ける意識 [ ワイン ] / 2006-05-08
化け物葡萄の工業発酵 [ ワイン ] / 2005-12-23